オトナの教養 週末の一冊

2020年7月2日

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存在自体が世界の信頼を失うトランプ大統領

 ロシアと中国から情報・文化支配の切り崩しをされている米国なのだが、石澤氏は「現在、大統領に就いているトランプ氏の存在自体が世界的に信頼を減じさせてしまっている」と話す。トランプ氏は大統領選で「アメリカ・ファースト」を掲げて、米国民に選ばれた。これは、米国が世界のリーダーとして君臨することを可能にした「自由」「民主主義」「人権」という「アメリカ的価値」と相反するものなのだ。

 「『自国第一』という考え方は、昔から米国にあったものだが、『アメリカ的価値観』を表に出すことによって世界の指導的立場にあることができていた。しかし、トランプの存在によってそれが抑え込まれるどころか、むしろ世界に暴露され、米国内や世界にその考え方を焚きつける状態となった」

 CNNやニューヨークタイムズといった世界から信頼されるメディアを通じて発信されていた米国による情報が世界を牛耳っていた中、ロシアや中国がインターネットを活用してかく乱し始めた。米国のトランプ大統領は失墜しつつある世論・情報・文化主権を守ろうとするどころか、放棄する行動をとり続けている。アメリカのソフト・パワーにおける世界支配は終わりを見せつつあるのだ。

コロナ禍に攻め込む中国、トランプは大統領選に〝注視〟

 米国の足元が揺らぐ中、「世界が新型コロナウイルスによる危機に直面してるのに乗じて中国が攻勢を強めている」という。中でも、強めているのがツイッターでの発信だ。自らは新型コロナを抑え込んだと豪語するところから始まり、欧州に医療支援などを講じ、感謝されていることを嘘も本当も交えて伝えている。「特徴的なのは、イタリアの医療団が中国に感謝の意を伝えている映像を出しているもので、実はこれが全くのフェイクニュースだった。中国は、国内ではツイッターを使うことができなくしている反面、各国大使館や広報担当者は海外へ発信している」と石澤氏は語る。

 中国が積極的な情報戦略を打ち出しているのに対して、米国のトランプ大統領は、初動で感染症を軽んじ、今では世界一死者を出してしまっている。挽回しようと、自らを「戦時の大統領」と語り、毎日2時間ほど会見を開いて〝メディアジャック〟して、一時的に支持率を上げた。中国へは、新型コロナを「武漢ウイルス」と称し、中国に疑念や不安感を持たせる一石は投じた。ただ、「こうした取り組みは急場しのぎの感が強くポリシーを持ったものではない。世界的に信頼を得るには弱い」と石澤氏は指摘する。

 何よりも、トランプ氏が頭の中は、この秋に控える大統領選挙でいっぱいだ。トランプ政権は強固な支持者による40%ほどの支持率をキープ。「選挙を左右するのはこの支持者が削られていくか、中間層をはじめとした浮動票を獲得できるか。バイデン氏かトランプ氏かを選ぶのではなく、トランプ氏にするか否かを判断する戦いになる」と見通す。今後のトランプ氏による発信は自らの選挙を考えたものとなり、世界の信頼を得るためのものではなくなっていくだろう。そうした意味では、中国に対しても、「昨年のG20の際の習近平との会談で、トランプ氏は米国産の農産品を輸入してもらうよう要請しており、中国からは足元を見られている」と、強硬な態度を取り続けるかわからないという。

 米大統領選でトランプ氏が勝つのか、バイデン氏が勝つのかはまだ見通しは難しい。ただ、米国政権が継続しようと刷新しようと、情報・文化帝国に返り咲くことは難しいという。「米国が右と左に分断されてしまい、もう戻ることはできない。世界へあこがれる『特別な国』ではなく、軍事力や経済力といったハード・パワーを持つ力のある『普通の国』になっていくだろう」と見通している。

  
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