2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年12月23日

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのジョシュ・ロウギンが、12月3日付け同紙に「中国の軍拡がバイデン政権を試練にさらす(China’s military expansion will test the Biden administration)」と題する論説を書き、中国の軍拡がアジアのパワー・バランスを変え、米国に試練を与えると論じている。ロウギンは、間もなく任期を終え退任する予定のデイヴィッドソン米インド太平洋軍司令官の発言、および、11月末に公表された米中経済・安保見直し委員会の年次報告の指摘を引用して、中国の軍拡について描写している。まず、そのごくあらましを御紹介しておくと、次の通りである。

Oleksii Liskonih / TebNad / iStock / Getty Images Plus

・中国軍は単にその領土を防衛する戦略を超えて、その海岸から遠い地域で行動し、戦えるようにとの目標をもって近代化している。習近平の下で、中国は先進的武器システム、プラットフォーム、ロケット部隊を建設し、戦略環境を変化させた。中国は、移動中の船舶を弾道ミサイルで攻撃する能力を持つに至った。(デイヴィッドソン)

・中国は今年、通常および核ミサイルの実験を世界の他のすべての国を合わせたよりも数多く実施した。これは戦略環境の変化の規模の大きさを表している。(同上)

・中国のミサイル、ロケット部隊は地域での「大きな非対称性」を代表しており、朝鮮、日本、東南アジア、台湾を結ぶ第1列島戦への脅威である。(同上)

・装備、組織、兵站での最近の進歩は、人民解放軍の戦力投射能力と中国から遠く離れたところに遠征軍を派遣する能力を改善した。軍事戦略上の進歩は、人民解放軍に、世界のどこでも作戦を遂行できる能力、および、命令があれば米軍に対抗できる能力を求めている。(年次報告書)

・人民解放軍の米軍に追いつく戦略は、中国の企業が世界で構築している民間の情報システムを使い、サイバー、宇宙、情報戦争の能力を強化することを含む。北京は、これを「軍民融合」と呼んでいる。(年次報告書)

 ロウギンのこの論説は、時宜を得た良い論説である。中国の軍拡は自分の領土を防衛する戦略を超えてきているとのディヴィトソン提督の指摘はその通りであろう。アジア、さらには世界での覇権を目指しているように思える。強い警戒心をもって中国軍の拡大には対処すべきである。

 中国は軍と民間が統合された形で軍事的優位を狙っている。いわゆる軍民統合であるが、そういう中で、「安全保障は米国、経済は中国重視」という政策は通用しない。また、人民解放軍の大学、研究所などへの進出に注意するとともに、日本に進出している企業についても、米国と情報交換しつつ、人民解放軍との関係を精査すべきであろう。サイバー空間、宇宙、情報における戦いのこともよく考える必要がある。

 経済安全保障の問題は複雑で、新技術の軍事への適用や機密保持など、多くの論点がある。新しい脅威にどう対応するかは大きな問題であり、国家安全保障会議に経済班ができたし、経産省も貿易経済協力局を中心に体制強化が図られている。

 なお、上記ロウギン論説は結論で、「最初の良い動きは、バイデンがこの脅威の性格と緊急性を理解する人を国防長官に指名することである」と述べているが、論説が掲載された後の12月8日、バイデンは、次期国防長官として、元陸軍大将で元米中央軍司令官(中東を管轄)のロイド・オースティンを指名した。いささか疑問が残る。対中強硬派でインド太平洋重視を鮮明にしているミシェル・フロノイ元国防次官が次期国防長官の最有力候補と取り沙汰されていただけに、失望を覚えた安全保障専門家は少なくないと思われる。フロノイを指名していればロウギンの言う通り「最初の良い動き」になったはずである。

  
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