2024年12月6日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年11月9日

 英フィナンシャル・タイムズ紙のコメンテーター、ギデオン・ラックマンが、10月19日付の同紙に「気が散った米国は台湾にとり危険である。ワシントンでの政治的混乱は北京に機会の窓を開くかもしれない」と題する論説を寄せ、米中衝突の危険性を指摘している。

seungyeon kim / Victor Metelskiy / iStock / Getty Images Plus

 最近、中国の軍用機は、より頻繁に台湾と中国との中間線を越え、台湾の領空を侵犯し、台湾側はスクランブル発進をかけている。11月3日の米国大統領選挙後の混乱の時期を狙って、北京が台湾に何かしかけてこないとも限らない。

 台湾への中国の侵攻は、長年、米国により抑えられてきた。米国は、台湾関係法により、台湾に武器を売り、米国が台湾防衛のために戦う可能性をオープンにしてきた。1996年、中国が台湾周辺海域にミサイルを発射した時には、米国は地域に空母を送り、警告した。その時以来、中国は大規模軍拡を行ってきた。

 現在の危機の背景には、習近平が2012年に指導者になった後の北京の台湾政策の急進化がある。習近平は、台湾に対する言辞を強めるとともに、中国は百万以上のウイグル人を収容所に入れ、香港の民主化運動を粉砕し、南シナ海で軍事基地を作り、ヒマラヤでインド兵を殺した。

 台湾への中国の全面攻撃は巨大なリスクである。台湾海峡を越え、兵力を台湾に上陸させる試みは多くの死傷者を出す。よって、北京は、より小規模な軍事、経済、心理的介入で、台湾人の士気と自治を侵食することを狙うことがもっとありうる。

 このラックマンの論説は頭の体操としてはよく書けているものである。台湾問題は、日本の安全保障に極めて重要なので、紹介すべきであると思い、取り上げた。

 台湾が米中覇権競争の中で一番発火しやすい問題であり、日本の安全の脅威になる可能性が一番高い問題であると考えている。北朝鮮の核の脅威などより、もっと心配すべき問題であり、我々は台湾問題に大きな注意を払っていくべきであると考えている。

 ラックマンの言う米中衝突の危険はもちろんゼロではないだろうが、その可能性はそれほど大きくないとも考えられる。それは、台湾に中国が武力侵攻しても、米国が介入に躊躇する事態は想像しがたく、米国の出方を中国が読み間違う怖れは小さいと考えられるからである。

 現在の中国の国家主席である習近平は、鄧小平とは考え方が外交姿勢に関して違うように思えるが、孫子の兵法、すなわち戦わずして勝つことを最善の策とみなしており、台湾人の士気を崩すなど、サラミ戦術をとってくる可能性が高い。ラックマンも同じ考えであるように思える。

 日本としては、台湾の民主主義を助け、台湾ナショナリズムがしっかりと台湾に根を下ろすことを、これまで同様に支援していくということだろう。中国が両岸関係の平和的解決という日米の要請を無視した場合には、日本もそれなりの覚悟をして対応するということだろう。

  
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