世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年9月17日

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 チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長は、9月1日、台湾を訪問し、台湾の議会にあたる立法院において演説を行なった。これに対して、中国は反発した。

MarianVejcik / iStock / Getty Images Plus

 9月2日付の英フィナンシャル・タイムズ紙の社説は、チェコの上院議長の台湾訪問を取り上げ、西側民主主義諸国が結束して、しかし繊細なやり方で、台湾を支援すべきである、と主張している。

 このフィナンシャル・タイムズ紙の社説の趣旨はもっともである。本社説は、第1に、台湾を国家として正式に承認するかどうかということが、今の問題ではないとして、中国との外交関係を樹立した1970年代の欧米諸国の微妙な立場を挙げる。そのうえで、第2に、台湾がこの30年間に権威主義を離脱し、自由で民主的な活気に満ちた国家を作り上げたとして、国際社会は、台湾をもっと強力に支持、支援すべきだ、と説く。

 そして、チェコのビストルチル上院議長の訪台やその前のアザール米厚生長官のような高官の訪台の頻度を今後ともさらに増やすべきである、と説いた上、「多くの国が同時に台湾との交流を格上げすれば、彼らを『懲罰』しようとする北京の企ては、自らを孤立化させることとなろう」と指摘している。

 台湾訪問中のチェコ上院議長は、9月1日、台北の立法院で演説し、共産主義に反対する立場を表明し、「台湾の人々を支持する」と述べた。台湾と外交関係のない国の上院議長が立法院(議会、一院制)で演説するのは初めてであり、チェコの代表団が90人の多数に上るというのも例がない。

 ビストルチル議長は、45分間の演説の終盤、ジョン・F・ケネディ米国大統領(当時)がかつて西ベルリンで行った演説で、「私はベルリン市民である」とドイツ語で述べて、民主主義の重要性を示したことを引き合いに出し、「私は台湾市民である」と発言して台湾の人々への連帯を示した。この言葉に立法委員たちは総立ちとなり、議場には大きな拍手と歓声が鳴り響いた、と伝えられている。

 これに対し、欧州訪問中の中国の王毅外相は、「チェコ上院議長らの台湾訪問は、一線を越えた。重い代償を払わなければならない」と述べ、威嚇した。

 EU(欧州連合)のメンバーであるチェコの上院議長の訪台は、今後、他のEUメンバー諸国が台湾に対し如何なる対応をとるかを見る上で特に大きな意味があると思われる。これまでのところ、ドイツ、フランス、隣国スロヴァキアなどの政府関係者等がビストルチル議長の訪台に支持を表明している。

 チェコ内部の政治状況を見れば、ゼマン大統領は今回の上院議長による台湾訪問を批判し、首相は沈黙を保ち、下院議長は否定的、とそれぞれ立場を異にしている。

 なお、台湾とチェコの経済的つながりは深く、チェコに進出している台湾企業にはホンハイ、ASUS、AUOなど大手のIT・通信機器産業が名を連ねている。地理的条件の良さや工業が発達していることから、台湾にとってチェコはEU市場進出への重要な拠点となっている。中国の対チェコ投資の額については、詳細は明らかではないが、台湾の投資額より少ないようだ。

 今回のチェコ上院議長の台湾訪問は、台湾の人々に特別な印象を与えたようである。「プラハの春」(1968年)や「ビロード革命」(1989年)を経験し、ソ連の共産主義、全体主義への抵抗、挫折など種々の経験を経てきたチェコ人にとって、台湾の置かれた位置への認識や共感には特別に重いものがある、と台湾の人たちは真摯に受け止め、評価したのではなかろうか。

 王毅外相が、チェコ上院議長の訪台に対し、報復を警告したことについては、ビストルチル議長自身がその直後の台北での記者会見において、次のように述べ、反論している。「自分たちの台湾訪問は間違っていない。...『一つの中国政策』にも反していない。それぞれの国には一つの中国に対する独自の理解と解釈がある・・・」。

  
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