7月17日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、米ブルッキングス研究所のシニア・フェローであるシュテルツェンミュラーが、欧州、とりわけドイツはファーウェイをめぐり大事な選択を迫られているとして、EUが対中国政策で団結することの重要性を説いている。
シュテルツェンミュラーの論説は、ファーウェイについてEUは団結して中国に対すべきであると言っているが、それは、現在EUが団結していないことを意味する。
実際、EUの足並みはそろっていない。論説で見る限り、ポーランドはファーウェイ排除を決めており、イタリアが発表したガイドラインは事実上ファーウェイを排除することになりそうである。フランスは、ファーウェイの機器を使用する通信企業に新たな事業許可を与えない方針で、実質2028年までに排除することを決めた。
EUの団結のカギを握るのはドイツである。メルケル首相自身は、ファーウェイを注意深く扱うべきであるとの立場である。しかし、メルケル首相の属するキリスト教民主同盟(CDU)の多くの議員をはじめ、連立のパートナーの社民党、緑の党などは、メルケルの立場に批判的である。一方、閣内のアルトマイヤー経済大臣、ドイツテレコム、自動車産業などがファーウェイの受け入れに賛成である。これは、中国がドイツの最大の貿易相手国であることを考えれば、いわば当然とも言える。
しかし、ファーウェイを取り巻く状況が変わってきている。それは、中国が香港の例にみられるように、最近、権威主義的な行動を強めており、論説によれば欧州に対してポピュリスト支持の情報操作や高位外交官による脅迫など、欧州の弱みを利用する強圧的な行動が目立つという。他方で、COVID-19が情報ネットワークの重要性をクローズアップした。つまり、5Gといった重要なデジタルエコシステムで中国に依存することの安全保障上のリスクが再認識されたのである。
論説は、欧州は団結すれば真の梃子を持てると言っている。どのような団結が可能なのか。これまでのEU内の議論、そしてカギを握るドイツ内の状況を考えると、EU27か国がファーウェイの全面排除で団結することは考えられない。例えば、EU諸国のテレコム組織が新たにファーウェイを採用することは認めないといったラインで合意がなされるのではないか。これは米国のファーウェイ全面排除に比べれば弱いが、中国にとっては大きな痛手だろう。
EUが強い姿勢でファーウェイに対処するようになるとすれば、その引き金を引いたのは中国の権威主義的行動である。中国は自らの政治、外交姿勢が経済にも影響を与えることを知らされることになる。しかし今の習近平体制は、経済的にマイナスだからと言って権威主義的、強権的姿勢を変えそうにない。その間、米中の対決の様相は一層深まっていくだろう。欧州諸国も、そして日本も、その影響を免れることはできない。情報社会の重要性を認識して、的確な政策を講じていくことが求められる。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。