中国の対外直接投資(ODI)は2016年に1701億ドルでピークを打って以来3年連続で減少し、19年は1106億ドル(対前年比18%減)となった。背景に米中貿易摩擦があるのは確かだが、他方で、(1)中国自身のODI政策の変更と(2)欧米の外資投資に対する規制強化が影響していることもみておく必要がある。両者をあわせて検討することで、中国のODIの今後の変化を予想することも可能となる。
(1)を具体的にみると、「一帯一路」構想の推進で野放図に急増(16年の対前年比増加率は44%)したODIに対して、中国政府が外貨管理の観点から規制強化に乗り出し、非実体経済分野(不動産、情報通信、娯楽・メディア等)への投資抑制措置を取った。実際、16年の投資増のうちかなりの部分が「投資を装った外貨持ち出し」だったとみられ、対外投資審査が強化された結果、17~19年のODIでは、非実体経済分野への投資が顕著に減少している。
(2)については、中国を念頭に、欧米が安全保障に関わる業種への海外からの投資規制を強化した。アメリカでは、18年8月に外国投資リスク審査現代化法と輸出管理改革法が成立し、対米外国投資委員会が安全保障の観点から外国投資審査を強化している。欧州ではドイツで17年7月に外国貿易管理令が改正され、外国企業のドイツ企業買収に対する審査が厳格化されている。EUレベルでも、19年4月時点で14カ国が外国による対内投資審査制度を設けている。
対照的に、こうした規制を受けない中国のアジア向けODIは堅調で、16~19年において輸送(自動車、鉄道)、金属(鉄鋼)、その他(繊維、教育)、娯楽、テクノロジー(通信)等を中心に増加した。各種報道から投資目的を分類すると、(1)一帯一路構想に基づくもの、(2)成長市場獲得を目指すもの、(3)コスト削減、貿易摩擦の影響回避のための生産移管、が挙げられており、国別ではインドネシア、カンボジア、フィリピン、インド、トルコ、パキスタン向けが多い。また、日本貿易振興機構によると、中国の対ベトナム投資が18年以降に急増し、19年上半期に投資国として首位となっており、投資目的は前記(3)が目立つという。米中・欧中貿易摩擦に起因する中国ODIのアジアシフトがどこまで進むのか、中国・アジアでサプライチェーンを展開する日本企業にとってもその行方から目が離せないといえよう。
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