2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年6月25日

 6月4日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、フィリップ・スティーブンス同紙副編集長が、欧州の対中関係につき3つの指針を提案し、人間の尊厳、民主主義と法の支配を尊重する立場から、欧州は、競争と協力の対中関係を築くべきだと述べている。

Rawf8/iStock / Getty Images Plus

 過去10年、EUは中国を経済機会として捉え、独仏伊の企業にとっては儲かる市場、東欧や中欧にとっては資金源であった。中国内での人権弾圧や南シナ海での隣国強圧、知財の窃取であろうと中国の悪行には目を瞑ってきた。政治家は中国の脅かしに屈してダライ・ラマとの会見をしないようになった。しかし、ムードは変わった。香港の一国二制度を蹂躙する中国の決定は遂に対応を引き起こした。英国首相は 5G ネットワーク構築におけるファーウェイの役割を縮小することを計画した。ドイツは中国によるハイテク分野への収奪的投資を規制することにした。南シナ海での行動やその他豪州への中国の強圧外交を踏まえて、EU は中国を「システミックなライバル」と呼んだ。

 この論説は、非常にクリアで、刺激的な論評である。日本でも同感を覚えるものは少なくないだろう。中国の飽くなき大国追及、強圧的な外交や行動を厳しく批判するとともに、欧州が中国との関係で経済利益を安全保障利益に照らして検討するなど、対中政策の新たな枠組みを提唱する。そして、3つの対中政策の指針を提案する。第1の指針は、欧州の価値観と利益は不可分だということである。経済的利益のために、民主主義などの価値で妥協しないということである。第2は、相互的、平等な市場アクセスを確保することである。第3は、中国を責任あるステークホルダーにする、すなわち環境や感染症防止など国際公共財に係る協力を進めることである。

 これは単なる中国恐怖主義や嫌中主義の論評ではない。人権や民主主義、法の支配の基準を適用し、競争と協力に基づく対中関係を開こうとするものである。競争と協力は相互排他的ではないとの言明は全くその通りだ。

 英国はEUを離脱してしまい、その国際的影響力は低減するのではないかと危惧するが、英国の人々には正論を吐き続けてほしいものだ。それでも英国のEU離脱は残念だ。英国の均衡のとれた、経験を通じて育まれた世界観は国際社会に大きな貢献をしてきた。英国のいない国際連合安全保障理事会は想像できない。国連安保理で見た英国の大局的、実務的貢献は今でも忘れることはできない。

 米国と中国の間で動かねばならない欧州の立場の描写も興味深い。米中両国の間で、欧州の立ち位置を持つことが可能だとする。同様の立場にある日本は、欧州との関係、対話を強化することが重要である。日本が学ぶこと、得ることも多いだろう。

 スティーブンスのキャメロン政権への批判は痛快でもある。中国が主導するAIIB(アジア・インフラ投資銀行)への参加などは唐突だった。当時の欧州の動きは不可解だった。

 現在、香港住民の約35万人が英国に査証なしで入国し最長6か月まで滞在できる英国海外市民パスポートを持っているが、ジョンソン首相は更に250万人にこのパスポートを申請する資格を付与することを検討していることを明らかにした。中国は反発しているが、良い考えである。

  
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