世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年2月28日

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 2月3日付英フィナンシャル・タイムズ紙で、米国のヘルヴィー国防次官補代行が、米欧は重要インフラ、軍事力、政治体制などの分野で共通の対中政策を実施すべきである、と述べている。このような論説が書かれるということは、米欧には共通の対中政策が無いということを意味している。 

hakule/iStock / Getty Images Plus

 一つには台頭する中国の挑戦の意味が米国と欧州では異なるという事情がある。 米国は中国の台頭は、特に先端技術について米国の覇権に対する挑戦であると見ている。先端技術は軍事技術と密接な関係にあるので、中国の挑戦は米国の軍事的覇権に対する挑戦でもある。 

 しかし、欧州は、中国と覇権を争う立場にない。欧州は中国を戦略的よりは経済的見地から見がちであり、欧州にとって中国は見逃せない市場である。 

 この違いを象徴しているのがファーウェイに対する米国と欧州の対応の違いである。米国は、中国はファーウェイで次世代の通信技術5Gを独占しようとしていて許せないと考えており、何とかしてファーウェイの影響力の拡大を抑え込もうとしている。これに対し欧州諸国の多くはファーウェイを経済的見地から見ており、ノキアなど他のメーカーより安いこともあり採用したいと考えている。最近英国政府が5Gの通信網の整備でファーウェイの機器の使用を認めることを決めたのは典型的な例である。 

 ただ、欧州も、中国を単に経済的見地から見ているだけではない。法に基づく秩序、自由と民主主義といった西側の基本的価値観に対し、中国は自らの専制政治体制を特に世界の発展途上地域に広め、中国を中心とした世界秩序を打ち立てようとしている。中国が専制政治体制の下で経済の飛躍的発展に成功したことに、途上国の指導者が惹かれるのは致し方が無い面もある。民主主義は発展途上にある国々にあっては根が降ろされにくい。中国が発展途上地域でヘゲモニーを握るのを阻止することには欧州は米国と共通の認識を持っていると思われる。 

 ただし、発展途上地域の中国傾斜を阻止するためには、資金が要る。中国は「一帯一路」政策で多大な投融資を行い、関係国に進出している。これに対抗するためには、中国の投融資に代わる信頼できる経済協力を提供する必要がある。 

 もっとも、法と秩序と民主主義を基本とする西側の政治体制と中国を中心とする専制政治体制の対立と言っても、最近欧州で旧東欧諸国を中心に民主主義が後退するような現象がみられる。西欧諸国においても極右、極左政党の台頭が見られる。民主主義は一時の輝きを失ったごとくであり、中国を中心とする専制政治体制の進出を食い止めようとする欧米の努力の勢いが弱まる恐れがある。 

 なお、欧米の陣営内でも問題がある。トランプ大統領は、EUを米国の同盟と考えるよりは貿易のライバルと見ている節がある。これも欧米が共通の対中政策を実施する上での一つの問題である。

 米国と欧州に共通の対中政策がないという問題は、日本と米国についても同様のことが言える。日本と米国はインド太平洋地域の中で最も強固な同盟関係を築いているが、両国間で共通の対中戦略があるわけではない。中国を仮想敵国とした共通の軍事作戦があるとしても、政治経済を含めた包括的対中戦略は存在しない。

 しかし、中国がこれだけ台頭し、米国に挑戦する形で、世界的覇権を狙っていることが明らかになってきた現在、より親密な協議を通じて、何らかの対中共通戦略が必要になろう。その観点では、ヘルヴィー国防次官補代行が提案するような欧米の共通対中政策の策定に、日本が参加し、日米欧共通の対中政策ができることが望ましいのだろう。

  
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