世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年12月20日

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 12月初めにNATOの首脳会議がロンドンで開催された。NATO首脳会議に先立ちフランスのマクロン大統領が「NATOは脳死」と発言し物議を醸した。マクロンはロシアとの関与を強めるべしといったことも言い、ロシア側の歓迎を受けた。これに対し、ドイツのメルケル首相、EUのフォンデアライエン新委員長は「NATOは最強の同盟」などとNATOを強く擁護したほか、ポンペオ米国務長官も「NATOは有史以来で最も重要な存在の一つである」と称賛した。トランプ大統領はこれまで、NATO加盟国の防衛費負担が過少であり不公平であると強く主張してきた(2014年のウェールズ合意で加盟国の国防費の対GDP比2%コミットが決まっているので理由のないことではない)が、今や、トランプですら、NATOは「偉大な目的に役立っている」としている。欧州人は防衛費を増やし、トランプはそれを自分の手柄にしている。いずれにせよ、NATOの分裂が喧伝された。

leremy/iStock / Getty Images Plus

 しかし、今回のNATO首脳会議では一つの重要な成果があった。それは対中国である。今回の首脳会議に際し発出されたロンドン宣言の中国に関する部分(第6パラグラフ)を抜粋要約してみると、次の通りである。

 「安全を確保するには、我々は共に将来を見据えなければならない。我々は、我々の価値と規範を維持しながら、我々の技術的優位を保つべく、広範で大規模な新技術に取り組んでいる。我々は、重要インフラとエネルギー安全保障とともに、社会の回復力を高め続けるであろう。NATOと同盟国は、5Gを含む通信の安全を保つことにコミットしている。我々は、 宇宙はNATOの作戦領域であると宣言している。我々はサイバー攻撃への対抗手段を高め、我々の安全保障と社会を損ねることを目指すハイブリッド戦術に備え、これを阻止し、我々を防衛するための能力を強化している。我々は、人間の安全保障におけるNATOの役割を拡大している。我々は、中国の影響力と国際政策の拡大は、機会であると同時に、我々が同盟としてともに対処すべきチャレンジであることを認識する。」

出典:‘London Declaration’, NATO, December 4, 2019

 冒頭でも指摘した通り、NATOの危機がよく言われるし、NATO内部での意見の相違は、自由民主主義国の集まりであるがゆえに、外部に明らかになるケースが多く、NATOの分裂の印象が強い。

 しかしながら、NATOは中国のこともあり、大筋では、これからも安泰であると判断してよいのではないかと思われる。今回の首脳会議では、中国の台頭と脅威の問題が真正面から初めて取り上げられ、NATOの問題として取り組む必要が認められた。これは大きな出来事であり、日本にとっては歓迎すべき進展であると思われる。

 中国の問題は太平洋の問題であると同時に、ユーラシア大陸の問題である。フィナンシャル・タイムズ紙のフィリップ・スティーブンスは、12月5日付け同紙掲載の論説‘Crisis, what crisis? The US needs Nato as much as ever’において、米中の競争が太平洋に限られるというのは基本的に誤った判断であると指摘、「北京の最重要な方向性は西に向いている。一帯一路はロシアを横にのけ、欧州をアジアに近づけ、中国を世界で最も豊かでもっとも人口の多い地域、ユーラシアで卓越したパワーにすることを狙っている。欧州からの米撤退は米が中国に最も重要な戦略的野心を実現させることになるだろう」と言っている。適切な判断であろう。

 今後の世界情勢は米中の対立が主軸になるだろうが、その中でNATOの役割が出てくるし、米欧日の連携が強まる傾向が出てくるだろう。これは日本にとり悪い話ではない。サイバーの問題など新技術の問題、宇宙の問題なども今回の首脳会談で取り上げられたが、適切なことである。日本もサイバー、電磁波、宇宙の新分野への取り組みをはじめているが、NATOと協力する機会があれば、推進すればよい。

 

  
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