世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年9月25日

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 欧州委員会のフォン・デア・ライエン次期委員長は9月10日、各政策分野の担当委員(「閣僚」に相当)候補を発表、次期欧州委員会が目指すビジョン、重点政策を明確にした。「閣僚」候補の欧州議会における承認プロセスは、9月下旬から10月にかけて順次進められる見込みだ。既に幅広く報じられている通り、環境保護、デジタル・競争政策、製造業とイノベーションの維持が柱となる。そのために社会的市場経済を重視する。もう一つ、あまり全面的には出されていないが、地政学重視という点も注目に値するように思われる。

Franck-Boston/iStock / Getty Images Plus

 フォン・デア・ライエン次期委員長の、彼女が率いることになる次期欧州委員会のあり方についての発言を、ごく一部ではあるが、抜粋、紹介する。

・このチームは、「欧州の生き方(European Way)」を形作る。我々は、気候変動に対して大胆な行動をとり、米国とのパートナーシップを打ち立て、自己主張を強める中国との関係を定義し、アフリカなどの隣人にとり信頼できる存在となる。このチームは、我々の価値と世界標準のために立ち上がらなければならない。私の委員会は、持続可能な政策にコミットする地政学的な委員会となるだろう。そして、私は、欧州連合を多国間主義の守護神にしたい。なぜならば、我々は、単独ではなし得ないことに対しても、協働することでより強くなれるからだ。

・我々はユニークな社会的市場経済を持っている。それは、我々の繁栄と社会的公正の源である。これは、気候とデジタルへの対処において、ますます重要なことである。

出典:‘The von der Leyen Commission: for a Union that strives for more’(European Commission, September 10, 2019)
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_19_5542

 上記は、もとより、詳細な政策を論ずることを目的とした発言ではないが、米国を重視するとともに、「自己主張を強める中国」との関係をしっかり定義しようという意思は窺える。問題は、中国との距離の取り方の中身である。欧州、特に西欧では中国への警戒が徐々に高まっている。昨年9月に採択された「欧州議会の対中関係報告書」では、EU中国関係は、人権、法の支配、公正な競争の尊重の上に成り立つべきことなどを強調、中国の一帯一路等を通じた欧州の戦略的インフラへの投資にも警戒感が示された。英仏は太平洋における軍事的プレゼンスを高めようとしているし、最近も、英仏独が8月末に、南シナ海における中国とベトナムのガス田をめぐる対立に懸念を表明したり、モゲリーニ外交・安保上級代表が香港への中国の対応ぶりに憂慮を表明するなどしている。もっとも、英国はEUを離脱しようとしているが。ドイツのメルケル首相が最近、香港の抗議活動の指導者と面会したことも記憶に新しい。他方、東欧には一帯一路に取り込まれ親中的な国もある。いずれにせよ、EU全体としての立ち位置を明確化できるかどうか注目される。

 フォン・デア・ライエン次期委員長は、EUが一体となって武力を保持することの重要性も説いている。ただし、EUは軍事同盟となることはない、NATOを補完するものである、としており、おそらく欧州軍のようなものを目指すのではなく、協力関係を深化させるということと見られる。フォン・デア・ライエン次期委員長のこうした姿勢を象徴しているように思われるのが、防衛・宇宙部門の新設である。これは、欧州委員会内で、軍に関連する資金調達、開発、配備を担うことになる。総局長にはフランス中央銀行のグラール副総裁が任命された。同部門の設置に、米国は自助努力促進の観点から勧奨してきた。米国との関係で望ましい決定であると思われる。今後の安全保障の重点領域である宇宙における欧州の協力を強化するというのも時宜にかなっている。長年ドイツ国防相を務めたフォン・デア・ライエン氏の経験が期待される。

 フィナンシャル・タイムズ紙の9月11日付け社説‘A commission to stand up for Europe’s interests’は、「彼女のチームは、米中という超大国の間における欧州の立ち位置を描き始めている。すなわち、持続可能な社会的市場経済という欧州のモデルを守り投射し得る、規制の超大国である」と言っている。的確な描写であると思われる。

  
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