世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年9月18日

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 イタリアでは「五つ星運動」と「同盟」という左右のポピュリズム政党が連立を組んでいたが、「同盟」が早期総選挙をもくろんで、8月上旬に五つ星との連立解消を主張して内閣不信任案を提出し、「同盟」と五つ星運動の連立政権は崩壊した。いずれにも属さない学者出身のコンテ首相は辞表を提出していた。

(vidalidali/iStock / Getty Images Plus)

 ところが、「同盟」の目論見通り早期総選挙とはならず、五つ星運動と民主党との間で新たな連立政権を作る作業が進み、8月29日にセルジョ・ マッタレッラ大統領はコンテに組閣を要請、9月5日に五つ星運動と民主党の連立政権が正式に成立した。過去73年で67番目の政権となる。こういう展開、ましてやコンテが再登板しようとは、全く予想外の結果である。抜き打ち選挙を仕掛けたサルヴィーニ(「同盟」代表。前政権では副首相兼内相)は一敗地にまみれたが、両党が連立を組む可能性は計算に入っていなかったに違いない。

 選挙に突入してサルヴィーニに勝たせることを避けたい両党の思惑が一致したのであろう。しかし、両党は反目しあってきた間柄である。五つ星運動にとって過去の民主党政権は腐敗した機能不全の政権であった。他方、民主党は五つ星運動を統治能力に欠ける田舎者と見ている。従って、両党の連立は便宜的な結婚に他ならない。それでも、財政規律や移民問題でEUにあからさまに反抗するサルヴィーニ率いる極端な政権が出来るよりは良い。来年度予算の編成を要するこの時期の選挙が不要になることも幸いと言うべきであろう。

 しかし、両党の間の閣僚ポストの配分と政策綱領の調整は一筋縄では行かないようである。民主党はEUと親和性のある政党で、ユーロ圏のメンバーシップを支持、財政規律を重視、サルヴィーニの難民排撃に反対である。他方、五つ星運動は拡張的財政政策を目指す。サルヴィーニが主導したNGOが海上で救助した難民の上陸を禁ずる措置の継続を主張。また、議員定数の大幅削減を主張しているが、これで割りを食うのは民主党と見られている。

 従って、問題は、この連立政権が何時まで続くかである。それはイタリアの抱える最大の問題、つまり経済の長期的な停滞の問題について、EUが連立政権をどのように支援出来るかによる。9月1日付のフィナンシャル・タイムズ紙社説‘A flawed Italian coalition will need EU support’は次のように指摘する。「サルヴィーニは野党にあって強い力を持ち続ける。EUにとって、ここは多数のイタリア国民を彼の主義主張になびかせた根の深い懸念に対処する好機である。EUは財政赤字を或る程度許容すべきである。そして景気後退期には公共投資の増加を可能とし規律を緩められるよう、財政ルールを見直すべきである。また、EUは南の加盟国の負担を軽減し、海上における難民救助を管理する難民庇護の体制を必要としている。そうでなければ、サルヴィーニの復権は単に時間の問題となろう」と。

 コンテにはEUとの協調を目指す姿勢が見える上に、なかなか気骨のある人物のようであるから、EUとしてはコンテを助けて政策の前進を図ることに意を用いるのが正解であろう。他方、連立政権の政権運営が軋み、政策が停滞するようでは、サルヴィーニの復権は時間の問題だ、という上記社説の警告は、その通りであろう。

  
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