日本では、欧州議会はそれほど馴染みがない。しかし、欧州議会は、欧州において重要な役割を担っている。例えば、EUの主たる意思決定機関であるEU理事会と共同で法律を制定したり、同じくEU理事会と並んで欧州委員会が提出する予算案を審議する権限を持っていたりし、EUの中でも重要な組織に位置づけられる。EUの顔である欧州委員会委員長(現在はユンケル氏)の選任についても、拒否権を有している。
その欧州議会の5年に一度の選挙が、来る5月23~26日に行われる。インドに次いで、世界で2番目に多い9700万人の有権者が、直接選挙で議員を選出する。EU加盟国それぞれにおいて選挙は行われ、加盟国の人口比に応じた比率で、議員数が割り当てられる。
欧州などのメディアでは、今度の選挙でも、極右政党が躍進するのではないかと予測している。それに対して、別の見方をする者もある。例えば、在ウィーン人間科学研究所のイヴァン・クラステフは、5月1日付のニューヨーク・タイムズ紙で、『欧州の有権者の殆どは現状に不満なのであり、それがすべてポピュリズムに向かうとは限らない、リベラル派の支持に行く場合もあり、まだ有権者の7割は態度を決めていないので、事態は極めて流動的である』、と述べている。
果たしてそうだろうか。確かに、クラステフが論拠としたYouGovと言う有力な世論・市場調査会社が外交問題欧州評議会という権威ある研究所の依頼を受けて、欧州の人口の多い14か国の5万人を対象に行った調査は、信頼性の高い調査と思われ、7割が流動的と言うのも、その通りかもしれない。しかし、最近の傾向では、例えば、スペインの総選挙で、極右ポピュリスト政党ヴォックスが初めて24議席を獲得して旋風を巻き起こしたように、ポピュリズムは勢いを増していると思われる。
欧州議会では、議員は加盟国の国内政党の代表としてではなく、主義主張に沿って作られた7つの院内会派に属する。現在の欧州議会では、中道右派の「欧州人民党グループ」とドイツの SPDなど社会民主主義系の「社会民主進歩同盟」の2つの中道会派が過半数を占め、与党となっている。しかし、大方の予想では、この2党は過半数を失うと言われている。
極右の会派としては、現在、「ドイツのための選択肢」やイタリアの「五つ星運動」などを母体とする「自由と直接民主主義のヨーロッパ」が751議席中46議席を占めているが、来る欧州議会選挙で、この極右の会派が躍進することになれば、今後の欧州議会に大きな影響を及ぼすかもしれない。
現在の与党が過半数を失うと、3党以上の連立となる可能性が出てくる。その場合、「自由と直接民主主義のヨーロッパ」会派が連立に入ることは考えにくいとしても、獲得する議席数によっては、議会の審議に影響を及ぼす可能性が出てくる。
なお、Brexitの期限が10月31日に延期されたことで、英国は、欧州議会選挙に参加する。英国は、欧州議会で、ドイツ、フランスに次ぐ、73の議席を持っており、選挙で英国の議員がどの会派に属することになるかによって、欧州議会への影響が異なってくる。また、11月以降Brexitとなれば、この73議席がなくなることになる。その意味では、英国のEU離脱は、欧州議会の会派のバランスにも影響を及ぼすことになろう。
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