2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年8月6日

 フランスでは、議会で、デジタル・サービス課税法が成立した。デジタルサービス課税法は、フランスにおけるグローバル・ハイテク企業の売り上げに3%の課税を行うというものである。利益が出ていなくても、売り上げ3%の税金は払わなければならない。

(Roman Bykhalets/jack191/iStock)

 これに対して、米国のトランプ大統領は、7月26日、「マクロン(仏大統領)の愚行に対する甚大な報復措置を速やかに発表する」と、フランスのデジタル・サービス税の導入を非難した。「フランスのワインに関税をかけるかもしれない」と、具体的報復関税をも示唆した。このようなトランプ大統領の発言は、米国の超党派の議員たちからも支持され、通商法301条の発動も言われている。

 フランスのマクロン大統領は、2018年、燃料税の値上げを計画したところ、「黄色いベスト運動」の激しい抗議デモに合い、結局、譲歩した際に大判振る舞いを したために、他の改革に取り組むことができず、埋め合わせの財源を必要としているのであろう。

 トランプ政権は、301条で報復関税を課すことを考えているようであるが、貿易は、EUの権限であるので、フランスとだけ交渉することはできず、EU 全体に圧力をかけるのであろうか。

 マクロン大統領とトランプ大統領の関係の変化も背景にあるのであろう。2018年の4月頃までは、シリア空爆等で両者関係は蜜月であったが、11月の第1次世界大戦休戦100周年記念の際のマクロン大統領の欧州軍設立発言や反ナショナリズム演説により、両者の関係は悪化した。所詮、教養主義のエリートのマクロン大統領とトランプ大統領では肌合いが合わず、マクロン側にもフランスの栄光を背にしたプライドや政治家としての経験不足による問題もあったのであろう。

 今のフランスに、米国と事を構えるような余裕はないが、他方、トランプにとってもフランスやEUと揉めている暇はあるのだろうか。米国・EU貿易交渉の帰趨にもよるであろうし、英国等が、フランスに追随する可能性も高い。また、中国、ドイツ、フランス等の企業も課税対象になるとの報道もあり、USTRの調査にも時間がかかるであろう。

 G20とOECDの連携により、2020年1月を目標とする作業が何らかの方向性をもたらす可能性もあり、この面で日本の果たす役割もあろう。

 また、GAFAの利益を守ることが、トランプにとり、大統領選挙対策上どの程度優先順位が高いかは良く判らない。ただ、GAFAの利益を代弁することは、その巨大企業の規模からも、大統領にとっては悪いことではないだろう。

 今後、フランスのデジタル課税をきっかけに、自動車への25%の関税やワイン等への報復関税が課されるようになれば、米中貿易戦争のみならず、米EU貿易戦争にもなりかねず、世界貿易の行方が懸念される。

  
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