6月18日のEU外相理事会は北マケドニアとアルバニアとの加盟交渉開始に関する決定を先送りした。北マケドニアは、旧ユーゴを構成していたマケドニアが改名したものである。マケドニアの国名に反発するギリシャとの間で、マケドニアを北マケドニアと改称する合意が2018年6月に成った。しかし、マケドニアでは国内の反対に遭い、今年1月の憲法改正を経てようやく実現した。マケドニアとギリシャが国名をめぐって争っている点を、EUとNATOがマケドニアの加盟を拒否する理由としていたため、それを取り除く必要があったという経緯がある。
2018年6月26日のEU外相理事会は、結局結論を持ち越したものの、北マケドニアとアルバニアについて、両国における改革の進展を評価し、改革が継続することを前提として「理事会は2019年6月の加盟交渉開始に向けた道筋を明確にする」との前向きの姿勢を書き込んだ。そして、今年5月、欧州委員会は北マケドニアとアルバニアとの加盟交渉開始を勧告したが、一年前にも両国との加盟交渉開始を勧告した。しかるに、去る6月18日の外相理事会は時間の制約と問題の重要性を理由として、「なるべき早く、遅くとも10月までに明確で実質的な決定に至ることを目途に」決定を持ち越した。要するに合意が得られなかったのである。
EU加盟国の中には交渉開始に積極的な国も十幾つあるが、フランス、オランダ、デンマークなどは反対派である。ドイツも議会の承認を得なければ賛成出来ないようである。マクロンには彼独自の反対論があるが、民主主義や法の支配が脆弱な東欧諸国を取り込んだために多大の迷惑を被っているという「拡大疲れ」が反対論の一般的背景を成しているようである。例えば、ブルガリアを取り込んだためにブルガリアのギャングが国境を超えて跋扈することを許すことになったという議論がある。
しかし、「バルカンは欧州の火薬庫」という言葉もある通り、バルカンの政治的・経済的安定を維持することはEUの利益であり、そのための責任を担うのはEU以外にないとの大局的判断が求められる。加盟交渉は長丁場の交渉であり、加盟が実現するとしも何年も先のことである。ここは両国のEU加盟の夢を潰さないよう、外相理事会の結論にあるように、10月までに加盟交渉開始を決定出来るかどうか、EUの信頼性が問われている。
一つの問題は、北マケドニアとアルバニアを分離すること、すなわち、北マケドニアとの交渉を先行させるとの案があるが、その可否である。加盟要件を充たすための改革の進展状況に関する欧州委員会の評価は北マケドニアの方が高い印象である。腐敗退治と司法改革も進んでいる。国名変更という大事業を成し遂げたこともある。国内のスラブ系とアルバニア系住民の関係も悪くないようである。他方、アルバニアについては問題視する向きがある。改革は進行中であるが司法の腐敗は大きな問題のようである。それに組織犯罪も問題で、アルバニアの犯罪グループがアムステルダムやロッテルダムに進出していることが、オランダ下院がアルバニアとの交渉開始を拒否した理由のようである。ドイツの与党CDU/CSUもアルバニアには敵対的のようである。そうだとすれば、一つの解決策は両国を分離することである。
しかし、北マケドニアに続いて首尾よく時間を置かずにアルバニアとの交渉を開始するという芸当が巧く行くかどうか分からない。両国の分離はバルカンの4つの加盟候補国のうちアルバニアのみおいてきぼりにし、アルバニア、コソボ、北マケドニアの3国に分散して居住するアルバニア人を大アルバニア主義に結集させる危険がある。ここはモメンタムを失わないうちに両国との交渉の同時開始に持ち込むのが望ましい。
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