米欧間には既に種々の経済摩擦があるが、今年は、それに気候変動問題が新たな戦線として加わりそうである。
欧州委員会のフォンデアライエン新委員長は、気候変動対策をEUの最優先課題の一つとして重視している。欧州気候法の成立と合わせ、国境炭素税の導入、2030年のEUの排出量を1990年比60%減とすること、欧州投資銀行の気候変動関連投資の割合を、2025年に現在の25%から50%に倍増するなどの政策を表明している。これらの政策はEUと米国との関係に新たな摩擦を招く。国境炭素税の導入は米国の石炭、天然ガス、鉄鋼、や多くの工業品の対EU輸出に大きなマイナスの影響を与える。
欧州委員会は、自動車エンジンにより厳格な基準を設けることも提案している。自動車の排気ガス規制の強化は米国のEU向け自動車の輸出を一層困難にするので、これに対し、トランプが黙っているわけがない。何らかの報復措置に出ることが十分考えられ、米欧間の緊張が高まるだろう。
EUと米国は、相互に最大の輸出市場である。気候変動を含む米=EU間の貿易戦争は双方の経済に甚大な被害を及ぼす。したがって、貿易戦争を避けることが双方の利益になることは間違いない。
しかし、トランプもEUも容易には妥協できないと思われる。トランプにとっては石炭産業関係者が支持層の一つであり、石炭火力の規制はできない。その他の規制についても、米国の産業の競争力を弱めるとして反対している。特に、大統領選挙の今年は、支持基盤の利益に反するような妥協はしないだろう。他方、EUでは一部の国を除き、気候変動対策が世論の一部となっており、気候変動問題での妥協をすることは政治的に困難である。また、欧州の国民の多くがトランプ嫌いで気候変動を重視していることを考えると、欧州の指導者は米国と対決せざるを得ないだろう。
英チャタムハウスのBruce Stokes准フェローは、1月7日付のForeign Policy 誌(電子版)掲載の記事‘Europe’s Green Deal Could Open a New Front in the Trade War’で、米・EUが政府レベルで妥協できないのであれば双方の議会や商業会議所が介入すべし、と主張する。具体的には、双方の議会に貿易戦争を避ける何らかの立法を探求することを求め、米国の実業界には政治献金を盾にトランプ政権に対して外交解決を迫るよう提言している。しかし、これも容易ではない。特に、米国では共和党がトランプほどではないにせよ気候変動問題に消極的であり、気候変動問題をめぐる米・EUの対立を緩和するような立法措置を講じることは期待できない。米国の実業界が仮に提言のように動いたとしても、どれほど実効性があるか分からない。
結局、気候変動問題をめぐる米・EUの対立を避ける有効な手段は考えられず、気候変動問題が米・EU間の経済摩擦の新しい戦線になることは避けられないと思われる。
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