12月1日、欧州連合(EU)は新体制に移行した。欧州委員会の新委員長には、ドイツのフォン・デア・ライエン前国防大臣を迎えた。初の女性委員長となる。EU新大統領にはミシェル前ベルギー首相が就任した。同日、EUは、基本条約である「リスボン条約」10周年を、新体制の発足とともに祝った。が、この10年間でEUは果たして世界的により強固な存在になったのだろうか。実際、この10年間で、世界的に最も急速に台頭し、米国に挑戦するまでの大国になったのは、中国である。
この中国と欧州との関係について、英フィナンシャル・タイム紙コメンテータ-のマーティン・サンドブが、11月27日付の同紙で、欧州は中国から「一帯一路」などの挑戦を受けており、これに対抗するには野心的なビジョンを打ち出し、実行する必要があると述べている。
中国は「一帯一路」を通じて、自らを中心とする経済ネットワークを欧州にも広げようとしている。このような中国を、欧州は「体制上のライバル(systemic rival)」と考えている。フランスのマクロン大統領は、欧州は米中の狭間で地政学的に消え去る恐れがあると警告し、EUのフォン・デア・ライエン新委員長は、そうならないように約束すると述べた。 欧州の指導者が世界の中の欧州の地位や役割について危機感を抱いているのは間違いない。
「一帯一路」については、すでに2012年に中国と中・東欧16か国の経済協力の枠組み「16+1」ができていたが、2019年4月にギリシャが加盟したことで「17+1」となった。特に、独仏などにとって脅威となったのは、2019年3月にイタリアが中国と「一帯一路」に協力する覚書を交わしたことである。中国が欧州の分裂を図っているとの懸念が表明されたのも無理はない。
欧州に対する中国の挑戦は、トランプ政権下で米国が多国間ルールに基づく国際秩序の維持に関心を失ったように見える中で行われている。欧州は中国の挑戦に立ち向かうとともに、米国に代わって国際秩序の担い手になる必要があると考えている。
サンドブは、欧州は史上初めて自らの利益を守るために攻勢し、第三国に魅力的であり、第三国に影響力を投射できるようになる必要があると述べている。
そのような必要に迫られた欧州に立ちふさがっているのが中・東欧問題である。中・東欧諸国は西欧より経済発展が遅れているのみならず、ハンガリーのオルバン首相に見られるように、自由民主主義をどこまで共有しているか疑わしい面がある。その上、移民に反対し、気候変動問題に無関心である。このような中・東欧諸国、それにイタリアやギリシャなどの南欧をどう取り込んでいくか、移民や気候変動の問題での見解の相違をどう乗り越えていくかは、欧州にとって大きな課題である。
サンドブは、欧州は「一帯一路」のような具体的で魅力的な将来のビジョンを明らかにし、第三国に指導的役割を果たすため、例えば「アフリカ大陸自由貿易地域の創設」等を考えるべきであると提案しているが、中・東・南欧問題の課題に取り組まず、欧州が分裂したような状態では、このような提案は絵に描いた餅になる恐れがあり、中国の挑戦に立ち向かい、国際秩序の担い手となることは困難だろう。フランスのマクロン大統領やフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が考える地政学的な欧州の実現は容易ではない。
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