世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年11月12日

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 アルバニアと北マケドニアのEU加盟が頓挫しつつある。10月17、18日に開催されたEU首脳会議は、マクロン大統領の反対によってアルバニアと北マケドニアとのEU加盟交渉の開始を拒否することになった。首脳会議の結論文書には「2020年5月のザグレブにおけるEU・西バルカン首脳会議の前に拡大の問題を再度取り上げる」と書かれているだけである。去る6月にEUは決定を持ち越していたが、再度先送りした。先送りというよりも、拒絶である。2020年5月までに情勢が変化する見通しにはない。

(GlobalP/jurisam/ Getty Images Plus)

 アルバニアには北マケドニアと比較すると、政治の安定度、腐敗、組織犯罪、法の支配において問題が多いようである。加うるに、北マケドニアは国名の変更を決断してギリシャとの関係を正常化し、EUとの加盟交渉の大きな障害を解消したという実績がある。従って、アルバニアとの加盟交渉に反対したデンマークとオランダも北マケドニアとの加盟交渉は容認する立場であったが、フランスは北マケドニアとの加盟交渉にも唯一反対した。

 マクロンは批判に晒されている。すなわち、両国に対する裏切りであり、歴史的間違いだというものである。

 マクロンの反対の論拠は、第一に、拡大の前にEU自体の改革が必要だというものである。EUは意思決定方式の合理化、ユーロ圏の強化など、やるべきことは多い。EUの強化のための改革が必要との議論は正論であろうが、それが両国との加盟交渉を認め得ない理由だというのは「ためにする議論」としか思えない。メルケルは両国との加盟交渉を後押しする立場であったが、マクロンは自身のEU改革提案に気乗り薄のドイツに対する当て付けを試みたという訳でもないであろう。

 第二に、マクロンは、拡大プロセス自体に欠陥があるとも言っている。これは、それなりに正当な議論だと思われるが、マクロンはどう是正すべきかについては何も言っていない。ルーマニアやブルガリアに見られる加盟後における法の支配の逸脱や腐敗の問題が念頭にあるのであろう。一種の「EU拡大疲れ」であろう。新たな欧州委員会が発足するので、拡大プロセスを見直し、法の支配の貫徹と腐敗の根絶の審査により重きを置くことが考えられよう。しかし、両国との加盟交渉の開始がその妨げになることは工夫次第で回避出来よう。加盟交渉はいずれにせよ長丁場である。

 マクロンが拡大に反対する真の理由は、国内的なものではないかと思われる。彼の国内の支持率には危ういものがある状況で、EU拡大はフランス国民に不評のようである。少々古いが、昨年5月の調査によると、フランス国民はEUの中で拡大に最も否定的(反対:61%、賛成:31%、不明:8%)の由である。EU首脳会議でマクロンはフランスに亡命を求める人間の中でアルバニア人が2番目に多い(それも迫害ではなく経済的な理由による)ことに言及して、そのような現状では加盟交渉を国民に正当化出来ないと遠回しに述べたともいう。ムスリムが多数を占めるアルバニアだけを標的にしていると見られることを嫌って、キリスト教多数の北マケドニアとの加盟交渉にも反対することになったらしい。そうであれば、マクロンが2022年の大統領選挙の前に方針を変えるとは想像し難い。

 国名変更まで行ってEUへの加盟を目指した北マケドニアのザエフ首相は、EUに裏切られたことを理由に議会を解散し、来年4月に総選挙を行うことを表明した。その結果次第で、EUはバルカンの貴重な友人を失うかも知れない。ザエフが国名変更に反対し大アルバニア主義を煽る強硬なナショナリストに取って代られるのであれば、バルカンは再び暗黒の日々に向かい得る。

  
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