2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年7月16日

 地球温暖化問題の深刻化で、環境問題が欧州の政治で重要な役割を果たすようになってきている。

(lapandr/Thinnapat/MartinMachnowski/iStock)

 地球温暖化が加速的に進んでいるのは間違いない。世界気象機関(WMO)は、2019年2月、2015年からの 4年間の世界の気温が観測史上最高で、2018年の世界の平均気温が産業革命前比で1℃上昇し、上昇幅は過去4番目に高かったと述べた。WMOの事務局長は、過去4年間の気温上昇は陸上と海面の双方で異常な水準にあると指摘し、ハリケーンや干ばつ、洪水といった異常気象の要因にもなった、と述べている。 

 地球温暖化の原因となっているガス(温室効果ガス)の4分の3はCO2であり、最大の排出元は石炭火力による発電である。産業革命前から1℃上昇した世界の平均気温の0.3%以上が石炭によるものであったと言う。2018年のCO2排出量は33.1ギガトンであったが、そのうち発電用石炭が10ギガトンであったとのことである。主な排出国は中国、インド、米国で、排出量増加の85%を占めた。 

 このような地球温暖化の進行に対する危機感が高まり、特に欧州では政治的に無視できない問題となっている。それを端的に示したのが、今年の欧州議会選挙で、緑の党は投票の 10.8%を占め、議席数は23増やして75議席を獲得した。 

 国レベルでは、英仏などが2050年までにCO2の排出量をゼロにする目標を掲げ、ドイツは石炭火力を全廃する計画を発表している。CO2の排出規制は政治問題になり得る。それは規制が石炭産業の存亡に関わり得ることと、コスト増につながるからである。トランプ大統領が地球温暖化対策に後ろ向きな理由の一つは、米国の石炭産業を保護するという政治的動機もあると見てよいだろう。 

 CO2の排出規制のコスト増の端的例は炭素税である。炭素税は、CO2の排出の削減を目指すとともに、環境関連の支出の財源を確保するためのものであるが、炭素税により、石炭、石油といった燃料のコストが上がり、競争力が削がれる。 

 一般に、産業界が炭素税に後ろ向きなのは、そのためである。 国際的には、炭素税を導入した国は導入しない国に比べ、競争で不利になる。 

 国境調整メカニズムとは、この不公正さを是正するために、炭素税を導入していない国から導入した国への輸出に関税をかけるというもので、WTOも、この国境調整関税は、それが差別的でないかぎり WTO違反にならないと言っている(元WTO上級委員 Jennifer Hillmanの2013 年の報告“Changing Climate for Carbon Tax:Who’s Afraid of the WTO?”)。 

 フランスのマクロン大統領は、最近、フランスの気候変動対策のコスト負担からフランスの企業を護るためと称し、「国境調整メカニズム」の重要性を強調している。フランスは 2014年に炭素税を導入し、2015年にエネルギー移行法を成立させ、2030年までに段階的に炭素税を引き上げることになっている。ところが 2018年、フランス政府による燃料税(炭素税)の引き上げに対し、低所得層が中心となっていわゆる「黄色いベスト」運動が展開され、パリで暴動にまで発展してしまったため、マクロン大統領は、税の引き上げ計画の見直しを余儀なくされた。「国境調整メカニズム」を含む炭素税計画は、一時足踏みをすることになった。しかし、欧州における環境問題への関心の高まりを考えれば、今後、炭素税の導入をはじめ環境対策をとっている欧州諸国による、そうでない国への関税の付与は一層進むであろう。 

 その場合、関税や関連する環境規制が、米国やインドなどの気候政策を変えることになるのか、それとも報復を招くだけなのだろうか。欧州諸国が環境関連の関税を賦課するからと言って、トランプ大統領が温暖化対策を変えるとは考えられない。トランプ大統領は、そもそも、パリ協定から脱退し、環境問題を重視しないことを明らかにした上に、関税を貿易交渉の武器と考えている。そのトランプ大統領が、米国に対する関税を甘んじて受け入れるとは考えられない。環境問題を重視する国と、そうでない国が併存する状況は、当分続くものと思われる。

  
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