最近ドイツの2つの州で行われた地方議会選挙は、劇的な結果をもたらした。10月14日に行われたバイエルン州議会選挙では、1958年以降ずっと単独過半数を占めてきたCSU(キリスト教社会同盟)が、第1党ながら得票率約37%と大敗を喫した。CSUはメルケル率いるCDU(キリスト教民主同盟)の姉妹政党である。10月28日に行われたヘッセン州議会選挙では、CDUが前回と比べて約11%得票を減らし得票率27%と、これまた大敗であった。そして、両州において、連邦政府でCDU・CSUと大連立を組むSPD(社会民主党)がCDU、CSU以上の惨敗を喫する一方、緑の党と右翼政党AfD(ドイツのための選択肢)が躍進した。
これらの選挙結果を受け、メルケル首相は12月のCDU党首選挙への不出馬と2021年の首相任期限りでの首相退任を表明した。これは、メルケルの権力維持策であると言われている。つまり、後継者選びに隠然たる力を残しつつ、2021年までは首相の座に留まろうとする意図である。後継者候補としては、女性のアンネグレット・クランプ=カレンバウアー幹事長、若手のイエンス・シュパーン保健相、ベテランのフリードリヒ・メルツ元院内総務などが挙がっているが、あまり抜きんでた候補はいないようである。メルケル自身は、カレンバウアーを推している。メルケルが2021年まで首相の任期を全うできるか、現時点では分からない。それ以前に辞任に追い込まれる可能性もある。一方、SPD内には、大連立への参加の結果、党の独自性が失われている、という不満がくすぶり続けており、連立離脱の声が高まり得る。ドイツ政治は混乱の度を増すであろう。
今回の選挙結果は、ドイツ政治の構造的な変化も表している。難民・移民問題をめぐり排外主義的なAfDが躍進したとよく指摘されるが、AfD以上に伸びているのが緑の党である。CSU党首でもあるゼーホーファー内相は、AfDに対抗するとして、強硬な難民・移民政策を主張したが、それは奏功せず、かえってCDU・CSU大敗の原因になったと思われる。CDU・CSUが失った票は、AfDよりも、むしろ緑の党に多く流れたとの分析がある。CDU=保守、緑の党=リベラルという分け方が単純には成り立たなくなっているように見える。
緑の党の支持者には若者が多いという特徴も見られる。緑の党の支持者は教育水準が高く豊かな傾向にもある。今回躍進した2州は、いずれも経済的に裕福な州である。今や、緑の党は、移民容認、貿易重視、多様性重視といった「開かれた社会」の標榜者の潜在的代表者といえるかもしれない。他方、長年リベラルの代表者であったSPDは凋落が著しい。SPDは国民政党と言っても、結局は労働者の党である。しかし、ドイツではブルーカラーの労働者は減り、労働組合への加入者も減少が続いている。社会主義政党の没落は、ドイツに限らず欧州で広範に見られる現象である。また、SPDは緑の党と対照的に、デジタル時代、環境時代に対する解答を持ち合わせていないという指摘があるが、その通りであろう。
最後に、EU改革への影響であるが、長期的には、親EUの緑の党の台頭はEU改革にとりプラスになり得るとの考えもあるようである。確かに、そういう可能性は否定できない。しかし、当面、EUの中心的存在であるドイツ政治の混乱、ドイツの存在感の希薄化はマイナスとなると見ておくべきであろう。
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