2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2024年6月3日

 日本が世界に誇る名山の一つである富士山。国内外問わずその美しい姿を写真に収めようと、富士山周辺では日々観光客が賑わいを見せている。そんな中、山梨県富士河口湖町にある“富士山をのせたコンビニ”では、人が集まることによる迷惑行為など対策として幕を設置。しかし、幕には日に日に穴があけられ……ついに「DON'T TOUCH(触るな)」の表示がなされた。
 富士山に限らず、日本には美しい風景や有名な観光スポットが数多く存在する。それらを求め人が殺到することで起こる迷惑行為や環境汚染に対して、どのように対処するべきなのだろうか。2023年12月21日に掲載した『スラムダンクブームに学ぶオーバーツーリズム対応法』を再掲する。

 これまでの記事「今話題のオーバーツーリズム その定義と課題、対策とは」で一般的なオーバーツーリズムのパターンと対策の基本、「どうする?日本のオーバーツーリズム」で著名な事例をお伝えした。実はオーバーツーリズムは、既に観光地として確立している地域にとってのみでなく、観光客を呼び寄せたいと思っている地域もそう思っていない地域も含め全ての地域が準備するべきテーマなのである。

 従来、観光客が来ていなかった地域が突然オーバーツーリズムに直面することは極めて稀であった。しかし、SNSを中心としたメディアの発達によって観光客を想定してなかった地域にも突然観光客が押し寄せたり、想定以上の観光客が急増したりして、地域住民とトラブルになるケースが出てきた。

スラムダンクの〝聖地〟として、インバウンドを中心にオーバーツーリズムの現場となりつつある鎌倉市内の踏切(gyro/gettyimages)

 これまではいわゆるゴールデンルート系の観光が多かったが、今後インバウンド観光客は地方により分散する可能性があり、このような事例は今後も出てくるだろう。準備ができていないところに突然変化がおこると人は多くの場合上手く対応できない。故に、観光客が急増した状況のイメージを膨らませ、どのような対応をするかの想定案を考えてみてほしい。

世界的な「スラムダンクブーム」で起きた摩擦

 元々観光地として想定していなかった地域になんらかのきっかけで観光客が急増する事例は世界各地で増えてきている。日本では、1993年に放送開始されたTVアニメ「スラムダンク(SLAM DUNK)」のオープニング映像のモデルとして知られる江ノ電の鎌倉高校前駅を降りた西側にある「鎌倉高校前1号踏切」がその一例であろう。まずはこの事例で、どのように観光地として想定していない場所でオーバーツーリズムが起こるかを紹介する。

 SLAM DUNKは海外でも放送され、この踏切はGoogle Mapにも「スラムダンク踏切」として掲載され、SNSでも容易に検索が可能である。2017~18年ごろから外国人観光客を中心に人が集まり出していた。

 22年12月に映画版「THE FIRST SLAM DUNK」が公開され、韓国、台湾、中国などでも封切りとなり、ブームが再燃。想定を超えた観光客が近隣住民にストレスを与えている。

 踏切周辺は平日の日中でも70~80人、多い時で100人以上の人だかりができる。事故防止のため江ノ島電鉄と市が手配した警備員がいるのだが、インスタグラムに投稿する写真を撮るために警備員の制止を振り切って車道に飛び出す観光客がいる。

 神奈川県警鎌倉署によると、踏切関連のトラブルによる通報・相談件数は昨年1年間に18件だったが、23年は6月末時点で47件、6月だけでも19件へと激増した。中には民家の庭へ侵入するなど、迷惑行為では済まされない事件も発生しているという。地元の鎌倉市は9月から、従来は土日や大型連休に限っていた交通誘導員を平日にも配置し始めた。

 江ノ島-鎌倉の一帯は、江ノ電の親会社である小田急電鉄の施策によって「外国人観光客に長期滞在を勧めるエリア」としており、インバウンド専用の割引周遊券「箱根鎌倉パス」を発売していた。鎌倉高校前駅周辺は住宅街であり、観光関連事業者である小田急電鉄の施策の影響を住民が受けている面もあろう。 警備員が常駐する山手側だけでなく、海側を走る国道134号(片側1車線)で観光バスが路上駐車してツアー客を降ろそうとするなど、新たな悩みが発生しているようだ。


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