2024年5月6日(月)

Wedge REPORT

2023年12月6日

 前回の「今話題のオーバーツーリズム その定義と課題、対策とは」はオーバーツーリズムの一般的な考えと初期的なパターン仮説を紹介した。本稿では象徴的な事例で更にオーバーツーリズムを掘り下げる。

スペイン・バルセロナのランブラス通り。バルセロナはオーバーツーリズムの一つの事例となっている(cenkertekin/gettyimages)

だんだんと変わる地域住民の感情

 事例を考察するに際して、まずは観光客増加に直面したときの地元住民の意識と行動を5つの時系列的な段階でたどるという「Doxyモデル(Doxey1975)」を紹介したい。

 第1段階は幸福感(Euporia)で、適度な観光客来訪による地域の経済成長を通じて、市民が雇用創出、交通インフラの改善、生活水準の向上といった恩恵を受ける。観光客との交流は友好的で、肯定的な存在とみなされる。

 第2段階は無関心(Apathy)で、観光客が増加し、より正式な受け入れ体制(観光産業)が整備されたときに現れる。市民は観光を当たり前の経済活動として見るようになり、人間関係やもてなしの気持ちは減少する。

 第3段階は苛立ち(Irritation)であり、観光客の圧力が臨界点に達する。マスツーリズムに関連する負の外部性(汚染、廃棄物処理、迷惑行為)の方が、経済的利益よりも重要であると認識される。

 第4段階は対立状態(Antagonism)。観光客は日常生活を破壊する存在とみなされる。

 最後の段階5は対応(Reaction)で、都市の一部が観光の所有物となって後戻りができないと認識した市民が都市を再構成(reinvent)する必要性に焦点を当てる段階である。

 オーバーツーリズムが悪化した第3段階以降は、観光恐怖症(Tourismphobia)もしくは anti-tourism(反観光)と呼ばれる。地域住民が観光客を拒絶する。

 例えば、ヴェネチアの反観光的グループによる、ヴェネチアに寄港するクルーズ船からの乗客の退出を妨害するデモ、バルセロナの反観光客グループによる観光バスの破損、「観光客は帰れ!」というタイプの看板、レストランや展示会、博物館、遺産などの特定の場所での観光客への販売拒否などである。


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