これからは東南アジア諸国連合(ASEAN)に目を向け、学ぶべしという記事「インバウンドの狙い目ASEANシフト必要な視点」を10月にアップしたが、今回はタイにフォーカスしてみたい。タイはインバウンドで世界の上位に位置する観光立国なのだ。
世界経済フォーラムが発表した世界各国の観光競争力と潜在性に関する調査であるTravel &Tourism Development Index2021において、タイは36位、日本は同調査で1位であるが、海外観光客数でタイは世界9位の3956万人、日本は11位で3188万人。観光収入ではタイが世界4位で605億米ドル、日本は7位で461億米ドルである(UNWTO Tourism High lights 2020)。つまり、タイはその観光潜在性をフル活用しているが、日本はうまく活用できていないのである。
コロナ禍でも機能した観光施策
タイの観光に関する全体の方針、戦略、施策は、基本的に観光・スポーツ省(Ministry of Tourism and Sports)が策定し、その傘下にある「State Enterprise」というタイ政府観光庁(TAT)が観光地の開発方針、ハード面での開発、観光業者の登録・管理、観光統計の分析、タイの観光イメージの立案、国内外のセールス&プロモーションを担っている。また、観光客に関わるトラブルを専門的に扱うための観光警察(Tourist Police)は、空港や主な観光地に設置され、観光客の盗難・紛失、交通事故等に特化したサービスを行っている。
タイは観光産業の成長戦略のみでなく、リスクマネジメントにおいても先進的である。タイの観光産業が国内総生産(GDP)に占める割合は2019年には20.3%を占めていたが、新型コロナウイルスの影響を受けその割合が20年には8.2%、21年には5.8%となった。そのような長引くコロナ禍で、タイはインバウンド観光客の受け入れ再開なしに観光業の再生ができないと判断し、21年7月にはプーケットにおいて条件付きの観光客受け入れを試験的に再開した。
コロナ感染が深刻ではない国・地域を指定し、そこからの直行便でプーケット国際空港に着陸する便を利用する観光客を対象に、入国検査時に陰性確認がされたら指定地域内で自由に移動を許可する制度であった。その後、プーケットの成果を検証し、この制度をサムイ島、クラビなどの南部主要ビーチリゾートに広げていった。