緻密な海外へのマーケティング戦略
筆者はそうしたタイの観光施策の背景を知るためにバンコクを訪問し、11月3日にタイ国政府観光庁の副総裁であるチョッタン氏(Chattan Konjara Ayudhaya)にインタビューした。
TATの主な役割は①タイの国際観光客増加のプロモーション、②国内観光の活性化、③国内観光産業の発展に向けた支援の3つである。約1000人の組織で、ターゲットとして重要な海外29カ所にマーケティング拠点を置いている。この拠点はTATからは2人程度が派遣されるのみで、あとは現地雇用で、現地の旅行代理店等と連携して情報収集とプロモーションを行っている。
TATの重要な役割はマーケティング戦略の立案であるが、その基盤はセグメンテーションとターゲティングである。TATは単に国レベルでの優先順位をつけるだけではなく、その国の中でどのような層を重要対象にするかという観点から、きめ細やかなターゲティングを行っている。
例えば日本に対しては富裕層の子どもや孫である「親リッチ」、インドはウエディング、韓国はゴルファー、ノルウェーやスウェーデンなど北欧のスカンジナビアは老後のロングスティを主ターゲットにしている。これはタイがこれまでの観光客の量を求める戦略から、より高付加価値・高価格な質と金額を求める戦略にシフトしたことが背景にある。
日本のマーケティング拠点は東京、大阪、福岡に置いており、そこで得られた情報を活用している。日本における今後の対象は未来への布石と観光に使う金額等の観点から資産家の親を持つ若年層(親リッチ)にしている。
海外にマーケティング拠点を置けばこうしたきめ細かいターゲティング戦略が取れるかと言えばそうではない。TATは各分野のプロを雇用し、トレーニングしているのである。
例えば今回、筆者が行ったミーテイングでは、チョッタン副総裁のほかに4人のメンバーが同席していた。チョッタン副総裁は国際関係論の学位を持ち、英語でのインタビューを流暢かつロジカルにこなす方であったが、それ以外のマーケティングを担うメンバーも2人はマーケティングの学位や国際関係論の学位を持ち、広報の担当者はTourism Management(観光マネジメント)の学位の保持者であった。
そして最新のマーケティングの知見を学ぶために毎年一定数の人員を海外の大学やタイのトップスクールに派遣して学ばせているという。適切なマーケティング戦略を立案・実施するための人員投資をしているのである。
中央集権型で緻密な情報交換
タイ政府は23年1月にアフターコロナに向けた新たな5年間の中長期観光戦略として23~27年の「第3次国家観光開発計画(The 3rd National Tourism Development Plan)」を発表しており、4つの大目標と4つの戦略、14の対策項目を設定している。これにはデジタル化への対応や、サステナビリティ対応等が含まれており、最新の知見をアップデートする必要があるのだ。