2024年4月15日(月)

Wedge REPORT

2023年12月6日

対策も効果を得ず、市長選の争点に

 11年から16年までの6年間で、バルセロナの人々が観光客に対して抱くネガティブなイメージは23倍にも膨れ上がった(Ajuntament de Barcelona、 2018)。この期間はDoxeyモデルで言う第4~5段階であろう。特に水着姿で旧市街で買い物する観光客のマナー違反をきっかけに、14年ごろに観光客排斥運動が拡大した。

 市は対策として、オーバーツーリズムが問題になり始めた12年から、5つ星ホテルに宿泊する場合は2ユーロ、4つ星が1.25ユーロ、それ以外のホテルで0.75ユーロ徴収し始めた。19年には、5つ星ホテルで2.25ユーロへ上がっていた。また、クルーズ客は、滞在時間が12時間未満の場合は0.65ユーロ、12時間を超える場合は2.25ユーロを支払った。

 しかし、この程度の課金では観光客数の抑制にはつながらず、宿泊施設の急増により伝統的な生活やコミュニティが損なわれるようになり、15年の市長選挙で宿泊施設の新設が争点となった。この時点でバルセロナ市民が観光業に対して不快感を持つ主な要因として、①観光客による夜間の騒音、②観光スポット付近での交通渋滞や公共交通における混雑、③法的認可を受けていない違法な宿泊施設の乱立、④海岸付近での環境汚染等が挙げられていた。

新市長の4つの〝改革〟

 アダ・コウラ氏が宿泊施設の新設凍結を公約に同年の市長で当選し、19年の選挙でも再選された。オーバーツーリズム問題が一層深刻になった15年に市長に就任したコウラ氏は大別して4つの施策を行った。

 1つ目は、16年に設置された「観光と都市に関する諮問会議(Consejo Turismo y Ciudad)」である。町内会、社会団体、専門家など60人で構成され、観光と市政についての協議を行う機関である。これによって観光政策と都市政策の融合が政府レベルだけでなく、住民レベルで行われることが可能になった。このようなステークホルダーの関与は極めて重要である。

 2つ目は「観光宿泊施設抑制計画(Plan Especial Urbanístico de Alojamientos Turísticos)」である。これは従来の総量拡大を基本とした都市の観光振興を根本から変革する政策であった。具体的には、宿泊施設の開発について市内でゾーニングを行い、中心地については宿泊施設の新たな建設を認めないというものである。

 この計画では、「ゾーン1」は主に旧市街であり、これに指定されると一切の宿泊施設の新築・増築が禁止される。これによって市の中心地や観光スポットの周辺で頻発する住居から民泊やホテルへの転換を政策的に抑えようという狙いがあった。

 他方、「ゾーン2」は旧市街以外の都心部であり、このゾーンでは既存施設の増築は原則禁止されているものの、同一ゾーン内での施設の移転については床数を拡大しない限り認められている。つまり、既存の施設が閉鎖した際、閉鎖した施設と同数の部屋数の施設の立地が可能なのだ。

 また、「ゾーン3」では、原則的に宿泊施設の新規開設や増築が可能である。幹線道路や高速鉄道の新ターミナル駅周辺の再開発地区に当たる「ゾーン4」は、再開発と連動する形で宿泊施設の開発が奨励されている。つまり単にホテルや民泊の開発を抑制するだけでなく、産業としての観光を健全な形で振興できるよう、包括的な仕組みが築かれたのだ。

 これは観光関連事業者には痛みを伴う改革であった。15年7月から2年間にわたり宿泊施設の新規建設が凍結され、飲食店等の観光関連店舗も規制対象となった。38のホテル建設プロジェクトが中止となり、30億ユーロ(3750億円)の投資と数千人の雇用がストップした。

 高級ホテル「フォーシーズンズ」は、バルセロナ市長の決定が不服で撤退を決めたという。スペインにおいて観光業は国内総生産(GDP)の12%を占める基幹産業だが、バルセロナでは約14~15%で、12万人の雇用につながっていた。この施策には観光関連業界が猛反発した。


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