2024年5月10日(金)

日本〝サイクル社会〟の現在地

2023年12月1日

 自転車利用を広げる方法を官民が一体となって議論する年一回の「自転車利用環境向上会議」が11月、東北の玄関口、宮城県仙台市で開催された。筆者も足を運んで、自転車利用環境をめぐるさまざまなディスカッションに耳を傾けた。特に関心をもって参加したのがシェアサイクル分科会だった。

大手町のドコモバイクシェア(筆者撮影、以下同)

導入数は増えても利用は伸び悩み

 日本のシェアサイクルは着実に成長している。それはデータからも明らかだ。

仙台のDATE BIKE

 国土交通省の資料によれば、シェアサイクルの実施都市数は調査が始まった2013年が55都市だったのに対して、21年には230都市に達している。駐輪場であるポートの設置数についても、13年は474ポートだったが、21年には5836ポートに増加した。都市圏でシェアサイクルに乗っている人が増えていることについては、多くの人が実感するところであろう。

 しかしながら、この10年間ほどの時間軸で考えたとき、私たち日本人の「交通の日常」にシェアサイクルが大きな居場所を作ったかといえば、まだそこまでは来ていない、というのが実情であろう。

 問題の所在は明らかだ。確かに導入都市の数やポート数は伸びているのだが、利用者数のほうは思うようには伸びていないのだろう。

 シェアサイクルの利用の広がりは基本的に「回転数(1日あたりの利用回数)」と「ポート数(または台数)」で表すことができる。

 これも国土交通省の資料によれば、平均回転数が0.5未満(つまり1日の利用が1回以下)のところが88都市で、1回以上の都市は11都市しかなかった。回転数が5回を超えないと採算は厳しい。本当にごく一部の事業者しか、収益を上げるという結果を出せていないことになる。

 日本の52都市で事業を展開する最大手ドコモ・バイクシェアの東京での回転率は1日4〜5回とされる。これが10回転に近づくほど、おそらくシェサイクル事業は「持続可能」な状態に入り、ポートと台数を自己増殖させていくことになる。

「観光目的」という自治体の思い違い

 導入する自治体が増えたのに、ポート数と台数が増えないのは、どこもまだ「実験段階」にとどまっていることが一因になっている。社会実験であっても、民間委託であっても、規模としては繁華街と駅をつなぐ程度で、面的な展開まで至っていない。

 そうした状況は、導入した自治体が挙げている導入の「目的」をみればなんとなく伝わってくる。

 「シェアサイクルの導入目的」を問われた複数回答可の質問について、「観光戦略の推進のため」と答えた自治体が125都市あったのに対し、「公共交通の機能補完のため」と答えた自治体は97都市だった。観光が交通より前に出てきてしまっているところに、大きな歪みが潜んでいる。それは、都市交通システムの一つとしてシェアサイクルを生かし切れていない、という点だ。


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