2024年5月20日(月)

日本〝サイクル社会〟の現在地

2023年12月1日

 観光は点と点を結べばいいが、都市交通になればそうはいかなくなり、面的展開が不可欠。しかし、それには採算制の問題があるので、どの都市(の事業者)も踏み切れないのである。

 しかし、シェアサイクルの本丸はあくまでも公共交通の補完・代替であって、観光ではない。つまり日常で利用されてなんぼの事業である。もちろん外国人に利用してもらうのはありがたい。ただ、観光という非日常の世界はあくまで補助要素にすぎない。

収益性だけではない社会的役割

 シェアサイクルは利益がでにくいビジネスだ。一回の利用が仮に平均300円だとして、1日に10回転したとしても収入は3000円である。タクシー1回の中距離乗車料金と変わらない。自転車整備ではパンクや破損もあるし、こまめな再配置も必要で、電動ならば充電もしないといけない。どう考えても、シェアサイクル単体で自然に大きな利益をあげてどんどんビジネスを拡大するモデルではない。

 一方で、シェアサイクルに期待される社会的役割はこのビジネスモデルとは非対称に大きい。「環境改善」「健康増進」「交通渋滞の緩和」など、シェアサイクルの普及は大衆の利益にかなう「大きな目的」が含まれる。だからこそ、行政は交通政策の一部として、恒常的に予算を支出しながら支えていくべき事業なのである。

 だが、日本では最初のパイロット的な実験段階では資金を出しても、一定期間が過ぎると事業者に独り立ちを求めるようになる。その理屈は、「あなたのビジネスなのだから自分で稼いでくださいよ」ということである。これは一見理屈が通っているように見えるが、シェアサイクルについてはあべこべの議論なのだ。

 シェアサイクル利用の拡大は、ポート数や台数の増加と比例して起きていく。しかし、シェアサイクル事業者単体での採算性を考慮すれば、どうしても利用者の多い場所に集中的に資源を投下せざるを得ず、結果としては市民の足としての広がりを阻害する要因になる。その問題を解決するためには、行政の関与を強める以外に解決策はない、というのが筆者の結論だ。

 これまでの交通体系は、自家用車と電車、バスなどの公共交通を中心に組み立てられてきた。

 しかし、日本シェアサイクル協会の分析によれば、自家用車は「プライベート交通」であり「環境に負荷」がかかり、「健康増進」という意味も乏しい。電車・バスなどの公共交通は「パブリック交通」ではあるが、環境への負荷と健康増進という意味では効果が少なかった。しかし、シェアサイクルは「パブリック」であり、「脱炭素」であるうえに「健康増進」にも役立つというトリプルウィンの交通手段である。

 もちろん民間としての努力は必要だ。優れたシステム、乗りやすい車体、効率的な再配置などを作り上げて、できるだけ行政の力を借りないようにしながら、借りるとすれば、ポートの設置などで融通を効かせてもらうことになる。


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