2023年12月1日(金)

良い失敗 悪い失敗

2023年3月4日

»著者プロフィール
閉じる

玉村 治 (たまむら・おさむ)

スポーツ科学ジャーナリスト、科学ジャーナリスト

小学校より野球をはじめ、大学では投手として活躍。スポーツを科学的に分析することを得意とし、バンクーバー、ロンドン五輪、ワールドカップサッカーなどで取材。

 日本が科学技術立国として生き延びられるか、大きな曲がり角を迎えている。日本の科学技術力の相対的地位が低下する中、それを支える若手博士は減少し、苦境にあえいでいるからだ。

(MAXIM ZHURAVLEV/gettyimages)

 こうした現状は以前から指摘され続けてきたが、状況は一向に改善せず、むしろ悪化している。若手研究者を大事にしない、博士の魅力を高められないなど「博士を有効に活用する政策」の失敗といえるだろう。若手研究者を惹きつける〝異次元の支援策と教育〟が、いま求められている。

3割が「博士課程進学はキャリア、収入にマイナス」 

 文部科学省科学技術・学術政策研究所が、今年1月末に発表した、博士課程進学に関する実態調査は、科学技術立国の屋台骨を揺るがす衝撃的な内容だ。

 2021年度に薬学、医学など6年制を含む、すべての大学院修士課程修了者12万5028人を対象に、22年1月16日~3月8日に、進路選択とその理由などについてアンケート調査を実施、1万7525人の回答を分析した。

 7割強が就職を選択し、博士課程進学は9.6%、進学準備は1.7%と進学を選択したのは1割ちょっとしかいなかった。残りの10%は医師の臨床研修、その他・未定は7%ほどだった。

 では、なぜ博士課程に進学しないのか?

 進学ではなく就職を選択した人に聞いたところ(複数回答)、「経済的に自立したい」が最も多く66.2%、「社会に出て仕事がしたい」が59.9%と続いた。次に多かったのが、「博士課程に進学すると生活の経済的見通しが立たない」(38.4%)、「博士課程に進学すると修了後の就職が心配」(31.1%)、「進学コストに比べ生涯賃金のパフォーマンスが悪い」(30.4%)など3割強が、「キャリアへの影響」「収入が低い」など経済面でのネガティブな理由で、博士課程進学を断念する実態が浮かび上がった。特に人文科学系の院生でこの傾向が高かった。

 実際、博士後期課程学生で生活費相当額(年額180万円以上)の支援を受けているのは、7万4000人の博士課程学生のうち10%程度しかない。同研究所の今回の調査でも、そうした奨学金を受けていても、返済が必要なケースが多く、借入金がある修士課程修了者は全体の3分の1の33.7%で、このうち4割以上が300万円以上の借入金を抱えていた。

20年間で、年間の博士課程進学2400人減少

 文部科学省などのデータによると、2000年度の修士課程修了者の博士課程進学率は、16.7%の9333人。それが、先述のデータと同じ時期に当たる21年度は、7ポイント減の9.7%、6940人と大きく減少した。

(出所)文科省科学技術政策・学術政策研究所「科学指標2022」 写真を拡大

 人口100万人当たりの博士号取得者(19年度)は120人で、英国375人、ドイツ336人、韓国296人比べ見劣りし、米英など主要7カ国の中で、博士号取得者が減少を続けているのは日本だけ。地球規模の課題解決に向け、博士号取得者を育て、それを活用している国が大半なのに、博士育成も博士の活用策も明確に打ち出せていない日本の科学技術政策のお寒い事情が浮き彫りになっている。

 博士課程学生だけでなく、研究を担う「博士研究者」(ポスドク)の任期付き雇用など、若手研究者の将来を見通せない現状は、日本の科学技術力にも暗い影を落としている。


新着記事

»もっと見る