図3は、40歳未満の大学(私学を含む)の専任教官の割合の推移だ。ポスドク1万人支援計画が始まった96年度に比べ、2019年度の若手教員の比率は半減にも近い22.1%しかない。
図4は国立大学の教員における40歳未満と40歳以上の教員の割合の推移と、それぞれの任期付きポストか、そうでないかの変遷を示したグラフである。教員に占める40歳未満の割合が減り、40歳以上が増加。さらに40歳未満の教員の任期付きの割合が倍近くになったことがうかがえる。
「運営費交付金の減額」響く
若手教員を増やす、本来の目論見通りにいかなかった背景の一つには、大学の法人化が始まった04年スタートの補助金制度の見直し「運営費交付金の減額」がある。国立大の人件費や通常の経費に当たる運営費交付金を毎年少しずつ減らし(10年間で10%減額)、代わりに「競争的資金」という科学研究費を増額した。大学が使う費用を、国から補助金に依存するのではなく、独自の研究力、教育力向上で競わせようという施策だ。
大学は競争的資金を獲得するが、これは安定的な恒常的資金でないため、気鋭の若手教員を任期なしでは雇えない。必然的に任期付きのポストが増えるという結果となった。
運営費交付金は、すでに任期なしのポストについているベテラン教員に回される。どんなに研究成果を出さなくても、解雇されず、定年までは働き続けることはできる。そのため、40歳以上の任期なしのポストの総数はほぼ変化していない。
確かに一部であるが、若手教員を任期付きで採用して独り立ちさせる「テニュアトラック」を導入している大学も増えている。現在、研究論文数の多い約80の大学で実施されている。
米国で見られる制度で、いち早く導入した東京農工大学は、若手研究者に450万~1000万円のスタートアップ資金を用意。一定期間、研究した後の審査で、成果が認められれば准教授など専任教員に採用される仕組みだ。06年から21年3月までに105人が採用されたが、29倍の極めて狭き門だ。
東京大学大学院のある研究科では、寄付金など外部資金獲得にも乗り出すが、運営費交付金の減額で、教授と准教授はほぼ同数。若手の助手はほとんどいないといういびつな状況となっている。これでは、博士課程への進学が魅力ないのもうなずけるだろう。
危機的状況に政府動き出す
こうした危機的な状況に、政府もさすがに、21年3月に閣議決定した「第6期科学技術・イノベーション基本計画」の中で、「優秀な学生が経済的な側面やキャリアパスへの不安、期待に沿わない教育研究環境などにより、博士課程の進学を断念している」との認識を示した。そのうえで、「経済的な心配をすることなく、自らの人生を賭けるに値するとして、誇りを持ち博士課程に進学し、挑戦に踏み出す」ために、25年度までに生活費相当額を支給する学生を従来の3倍の約2万2500人に引き上げる目標を盛り込んだ。
これを受け、21年度から博士課程学生の経済的支援が強化された。従来からあった、学振の「特別研究員制度(DC)」の拡充のほか「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」で47大学1000人の博士課程学生に生活費相当額(年額240万円)が支給された。
ほかに、博士課程在学中、キャリア開発なども含めた「次世代研究者挑戦的研究プログラム」、挑戦的・融合的研究に対し最長10年間の支援を行う「創発的研究支援事業」のRA(リサーチ・アシスタント)事業拡大などを含めて、新たに計7800人の博士課程学生を支援することになっている。これで、経済的支援を受ける博士課程の学生は1割の7400人からは、2割の1万5000人強に増えることになる。
とは言え、まだまだ8割は援助を受けずにいることは見逃せない。