2024年5月28日(火)

良い失敗 悪い失敗

2023年3月4日

企業で活躍する博士課程修了者は3割程度

 博士課程への進学者が減少している二つ目の理由として、就職の受け皿として民間企業に行く割合がまだ少ないことがある。

 経済産業省の未来人材会議の資料(図5)によると、日本の博士課程修了者の就職先として、大学(教員、研究者)は58%、民間企業は36%なのに対し、米国は民間企業が56.2%と多い。そもそも海外では、企業における研究は博士が担うのは普通で、日本のように学部卒や修士課程修了者を採用して、研究者に育てるのは一般的ではない。日本の博士号を持つ人は75%が大学に所属し、企業は14%、米国は大学45%、企業が40%というデータがある。

(出所)経済産業省 未来人材会議資料2022 写真を拡大

 確かに企業における博士課程修了者の活躍の場は、海外に比べ低いが、それでも最近は徐々に広がっている。

 背景には、海外事業を展開し、比重を高める日本企業の増加で、海外企業と交渉する際に博士号を持っていると話が進めやすくなることがあるからだ。外資企業の研究責任者の多くは博士であり、経営者も博士号を取得している人が多い。脱炭素化、環境関連、さらにはIT分野での国際連携が不可欠になっている中、博士号取得は、大きなメリットとなっている。

 例えば海外企業との交渉が多い商社の三井物産は、15年から大学院の博士課程学生・修了者を対象とした新規採用枠を設け、総合職(一般職)の採用活動に本格的に乗り出している。従来、博士課程学生は「融通がきかない」「視野が狭い」と敬遠されていたが、同社は研究で培われた「粘り強さ」「情熱」「探求心」が国際ビジネスに役に立つと評価している。

 日本アイ・ビー・エムの東京基礎研究所も積極的に博士人材を採用。待遇面でも博士人材を優遇し、新規採用の7割、研究所全体でも6割が博士課程修了者で占められる。

 工作機械などを製造販売するDMG森精機は、23年4月入社の博士課程修了者の初任給を31%増やして国際標準に合わせると発表した。

 他に、大手銀行なども博士号取得者採用に力を入れ始めている。企業研究者が、大学の博士課程で学び直す動きも加速している。

 文科省などによると、21年度に博士課程修了者を採用した企業(資本金1億円以上)の割合は、9.3%、前年度の9.6%から微減した。一方で、民間企業の就職者数は増加している。博士課程修了者を受け入れている企業は増えないが、受け入れている企業は博士課程修了学生の採用を増やしているということだろう。

 そういう意味で、企業と大学の連携は進んでいるといえるが、研究開発者として採用を前提に、学部生、大学院生のインターンシップ制度を実施している企業は35.4%、27.4%とまだ少ない。積極的な人材獲得策を実施していない企業は43.7%に達し、民間企業が博士課程学生に門戸を開いているとはいいがたく、国際競争力の観点からもインターンシップなどをいかに拡充していくか、課題と言える。

大学は、博士課程学生に夢を!

 最後に、大学側の教育の問題について触れたい。運営費交付金の減額などによって若手教員の道は狭き門となり、大学での研究を夢見た学生らには大きな失望になったことは間違いない。「ポストが少ない中、若者に大きな夢を持てとは語れない」という大学の教員の声をよく聞く。

 しかし、研究する場は日本の大学ばかりではない。先ほど述べたように、企業も少しずつ門戸を広げている。海外の大学、企業への挑戦も大いにありだろう。しかし、大学の教員の中にも、最近は海外留学をしない人もでてきている。論文数のわりに国際共著論文が少ないのも、こうした留学経験が少ないということと無関係ではない。

 図6は、海外の大学などに留学する学生の国際比較のグラフ。これを見ると、04年以降留学は減り続けており、17年時点で韓国の6割弱しかいない。

(出所)経産省未来人材会議2022年、OECDデータなどをもとに同省作成 写真を拡大

 中国は、海外に留学し、中国に戻る「海亀政策」で増加の一途。経済成長が著しいインドも、急増している。日本の留学生は、人口が半分の韓国の6割程度しかない。今もその傾向は変わらない。

 産業能率大学などの調査によると、17年に企業に就職した新入社員の6割が「海外赴任したくない」と回答。04年の29%に比べ倍増。内向き傾向が強まった。海外人材との交流が少なく、イノベーションに不可欠な多様性に欠ける人材が増えていることが懸念されている。


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