電気自動車(EV)はこのまま普及するのか、それとも壁にぶち当たって失速するのか。
この数年というもの、飽きるほど聞いた論争だ。「脱炭素は世界的な潮流であり、逆転することはない」「実際に保有すればわかるが、加速性能や乗り味、あるいはOTA(オーバー・ザ・エアー、無線によるソフトウェアアップデート)などのユーザー体験は内燃車を上回っている」「実現間近の自動運転との相性の良さ」など普及派の論を聞くと、なるほどなるほどとうなずいてしまう。
一方で、「高額なバッテリーを使うEVは割高。補助金がなければ誰も買わない」「EVの製造時に莫大なエネルギーを消費するほか、充電するための電気を作るのにも温室効果ガスを排出するのだからそもそもエコではない」「内燃車をすべてEVに置き換えるとレアメタルなどの資源が枯渇する」など、否定派の意見を聞いても説得力を感じる。
なかなか答えが見えない論争が続いているわけだが、先日、この論争に新たな〝燃料〟が投じられた。11月5日、トヨタ自動車の豊田章男会長はジャパンモビリティショーでの対談イベントに登壇し、ガソリンスタンドでの給油は3分で済むがEVの充電は3時間かかるのでガソリンスタンドより多い充電ステーションが必要になり、まだ、そのインフラは整っていないと指摘し、「(未来が)100%電気自動車になると決めないでほしい。いろいろ不都合な話があると思う」と発言した。
筆者の周囲にも、これを聞いてそのとおりと納得した人もいれば、豊田会長はEVのことを何もわかっていないと怒った人もいる。やはり論争は終わらない。
つまるところ、「EVは普及に値する価値があるが、実現にはハードルも多い」ということなのだが、2021年以後はテスラの快進撃と株価高騰、世界市場のEV販売台数高成長、BYDに代表される中国EVメーカーの台頭など、普及派を勇気づけるニュースが多かった。ただ、豊田会長が言うからではないが、24年は否定派が勢いづくニュースが増えるかもしれない。
欧米、そして中国でEVに陰り
ウォールストリートジャーナル日本版は11月20日、「米国人の「EV愛」は冷めたのか」と題した記事を掲載している。バッテリー式電気自動車(BEV)の販売急成長が止まり、ここ半年は月10万台前後で推移しているという。在庫が積み上がったことから各社は値引き販売に踏み切り、10月のEV新車平均販売価格は前年から2割ほど下がっている。
その理由だが、「恐らくはEV熱の第一波をもたらしたテクノロジー好きの富裕層が、すでにEVを買ってしまったということなのだろう」と推測している。エコのためならば割高のEVを購入しても良い、そう考える人にはある程度いきわたったという見立てだ。