2023年12月1日(金)

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2023年10月25日

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関口和一 (せきぐち・わいち)

MM総研 代表取締役所長

1982年一橋大学法学部卒、日本経済新聞社入社。88年フルブライト研究員として米ハーバード大学に留学。英文日経キャップ、ワシントン支局特派員、産業部電機担当キャップを経て、96年より2019年まで編集委員を務める。00年から15年間、論説委員として情報通信分野などの社説を執筆。19年より現職。近著に『NTT 2030年世界戦略』(日本経済新聞社出版)。

 欧州最大の家電見本市「IFA」が9月初め、ドイツのベルリンで開かれた。IFAは米ラスベガスで開かれるIT見本市の「CES」、スペインのバルセロナで開かれるモバイル見本市の「MWC」と並ぶ、ITの世界三大見本市の一つだ。海外の最新技術動向を定点観測するには格好のイベントで、筆者も記者時代の16年前から取材を続けてきた。

IFAの会場は活況を呈していたが、日本メーカーの存在感は希薄だった(筆者撮影)

 コロナ禍を経て、IFAが本格的に会場開催されるのは4年ぶりとあって久しぶりに足を運んだが、家電産業の〝地政学〟が一変していることに愕然とした。世界を席巻した日本の大手家電メーカーはいずれも展示ブースを設けておらず、代わりに主役に躍り出ていたのが中国や韓国、トルコのメーカーだった。「家電王国ニッポン」の姿は見る影もなかった。

 IFAにはソニーやパナソニックなどの担当記者もよく現地に駆け付けたが、今年はそうした記者の姿も見られず、日本の主要メディアでは現地の窮状はほとんど報道されていない。欧州市場で弱体化する日本の家電産業の危機的状況をわれわれ日本国民は知る由もないというわけだ。現地取材をもとにIFAの様子をリポートし、日本企業に向けられた課題を提示したい。

転んでもただでは起きない
中国メーカーのしぶとさ

 「これが世界最薄の折り畳みスマートフォンだ」。見本市の冒頭に基調講演したのは中国の新興携帯端末メーカー、栄耀終端(HONOR)のジョージ・ジャオ最高経営責任者(CEO)で、同社が新しく開発した薄型スマホ「HONOR Magic V2」を発表した。

 折り畳みスマホは韓国のサムスン電子や米グーグルなどが投入しているが、新製品は厚さがわずか4.7ミリメートル、折り畳んだ状態でも9.9ミリメートルと通常のスマホと変わらない厚さだ。ジャオCEOは独自に開発した薄型電池も紹介し、「最新のiPhoneよりも電池が長持ちする」と強調、会場から大きな喝采を浴びた。

 実はオナーはもともと中国の大手通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)のサブブランドだ。米国政府による対中制裁を逃れるため、同社は2020年にそのブランドを別会社として分離独立、海外では「HONOR」ブランドで事業展開している。IFAにはこれまでファーウェイが出展していたが、今回はオナーが同じ場所に大きなブースを構えていた。転んでもただでは起きない中国メーカーのしぶとさに驚いた。


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