今年のIFAには世界48カ国から2059社・団体が出展したが、半数以上の約1200社を中国勢が占め、海信集団(Hisense)や海爾集団(Haier)、TCL科技集団、長虹電器(Changhong)なども大きなブースを開設していた。
さらに今回大きな存在感を誇ったのがトルコの家電メーカーだ。トルコ最大の財閥、コチの傘下にあるArcelikや、VESTELといったOEM(相手先ブランドによる生産)メーカーである。日本の家電企業の多くは欧州市場ではトルコのメーカーに製造を委託しており、その受け皿として成長したのがこの2社だ。
トルコではエルドアン大統領による00年代からの民主化政策が奏功し、一人あたりの国内総生産(GDP)が急速に拡大、大量消費を担う中産階級が急増した。量産による低コスト生産が可能になり、海外輸出が増えたことがトルコの家電産業を大きく成長させた。日本が戦後に経験した「高度経済成長」と同じ現象が起きたといえる。ベステルは日本のメーカーからブランドの使用権を入手し、白物家電を「SHARP」、テレビを「TOSHIBA」のブランドでも製造販売している。
一方、ソニーやパナソニック、シャープなど見本市の花形だった日本メーカーは展示ブースの開設を見送ってしまった。ソニーは市内のポツダム広場に複合商業施設「ソニーセンター」を築くなど東西ドイツ統合を支援し、ソニーのブースはベルリン市民の人気の的だった。今回は真っ白な壁で囲まれた商談ブースを設けただけで、「クリスマス商戦の商談に専念することにした」(ソニー広報)という。
パナソニックは昨年、環境に配慮した展示で高く評価されたが、今年は商談ブースのみで、シャープも一般の来場者やメディアの入場を断っていた。いずれも「出展に必要なリソースが足りず、コスト的にも見合わないと判断した」と苦しい胸の内を明かす。
欧州で日本の家電産業が凋落した背景には20年から拡大したコロナ禍の影響が見逃せない。IFAも中断されたり、オンライン開催になったりしたが、この間に日本の大手家電メーカーの競争力は大きく損なわれた。
日本の家電メーカーの姿は
どこへ行ったのか
「日本メーカーの出展がなくなったのは本当に残念」。深いため息をつくのはIFAやCESに日本から毎年出展している電子部品メーカー、クリエイティブテクノロジー(川崎市)の辰巳良昭CEOだ。自前のフィルター技術を生かし、静電気で花粉やほこりを取り除く製品などを出展しているが、「世界に雄飛した日本の家電メーカーの姿はどこへ行ったのか」と嘆く。
主催団体によると、日本からの出展は辰巳氏らを含めてわずか5社・団体。ソニーなど大手は現地法人から登録するため、この数に含まれないが、会場で気が付いた日本メーカーのブースはせいぜい10社ほどだった。音声翻訳機メーカーのポケトーク(東京都港区)、音響機器のヤマハ、ソニーの子会社だったアイワ(東京都北区)など、ごく一部のブランドだけだった。
IFAには世界から多くのベンチャー企業も参加し、今年は約350社が専用ブースに集結したが、日本からの出展はここでもわずか2つ。経済産業省が支援する「Jスタートアップ」の展示ブースも見当たらなかった。最大勢力は韓国で約120社が出展し、ベンチャーのブースはさながら〝韓国パビリオン〟のようだった。