ニコラは本社を米アリゾナ州に持つ、電動トラックに特化した企業だ。一時、水素エンジントラックの開発に着手していたが、その走行テスト結果などが虚偽だった、として批判を浴び、水素エンジンから撤退した過去を持つ。
しかし、その後BEV(バッテリーEV)とFCEV(燃料電池車)でそれぞれ大型トラックを発表するなど、物流業界から注目を集める存在となっている。今年6月にサクラメント市で開催されたカリフォルニア州水素リーダーシップ協議会では燃料電池であるニコラTRE FCEVを会場外で公開した。
バッテリーEV、燃料電池双方で生産
ニコラの強みは「TRE BEV」と呼ばれるバッテリーEV、燃料電池の「TRE FCEV」双方でクラス8の大型トラックを生産している、という点だ。クラス8は積載量込みの総重量8万2000ポンド(約37トン)以下のものを指し、港湾で荷揚げされたコンテナをそのまま積載できる大型物流の要となるものだ。特に国土が広い米国では需要が高い。
一方で「トラックは自動車全体が排出する地球温暖化効果ガスの4割を占めている」と言われ、改善を求められている業界でもある。そこで最近進んでいるのがクラス8を中心としたトラックのゼロ・エミッション化だ。
昨年12月にはテスラが同社初の商業用トラックとなる「セミ」をペプシコ社に納品し、その納品式やペプシコ社に出発するセミの映像などが公開され話題となった。テスラ以外にも大型トラックでシェア1位の独ダイムラー、ボルボなど、トラックのEV化を進める企業は多い。
今回ニコラは今年後半に市販を開始する「TRE FCEV」を公開したが、そのスペックを見ると1回の給水素による航続距離は500マイル(約800キロ)、給水素に要する時間は20分、とほぼディーゼル燃料に近い。一方で「TRE BEV」では航続距離330マイル(約520キロ)、充電に要する時間は90分だ。
これを「テスラ・セミ」と比較すると、「セミ」の場合はバッテリー容量の異なる2つのモデルがあり、航続距離はそれぞれ300または500マイル(約480キロ、800キロ)で、充電時間はテスラによる急速充電器を使用した場合30分で70%まで回復可能だという。
ニコラ・テスラ
テスラとニコラは元々ニコラ・テスラという米電力の父と呼ばれ、トーマス・エジソンとライバル関係にあった人物から社名を取っている。テスラが乗用車から発電まで幅広いレンジのサービスを提供しているのに対し、ニコラはトラックのみに注力してきた。そのせいもあるのかテスラに対する意見は辛辣だ。
今回話を聞いたマーケティング関連担当のセバスチャン・ジョルツ氏は「テスラが『セミ』を発売した、と言うが実際に顧客が『セミ』を購入することはできない。あらかじめ予約が入っていた企業に納品した、というだけでPRのようなイベントだ」という。一方のニコラは実際に販売を開始し、本当の意味でのEVトラック普及に貢献している、と強調した。