2024年5月21日(火)

Wedge REPORT

2023年10月25日

日本の内向き志向が
海外で裏目に

 では欧州の家電市場における日本メーカーの存在感はなぜここまで失われてしまったのか。まず考えられるのは「ポストコロナ」に向けた日本企業の経営者の気構えの問題だ。日本の国内市場はコロナ禍からの立ち直りが海外市場に比べ総じて遅く、そうした国内の弱気なムードが各メーカーの海外戦略にも影響を与えたといえよう。

 「失われた30年」の言葉に象徴される日本企業の内向き志向も見逃せない。日本の経営者も昔は中国や韓国のように海外志向が強かったが、バブル崩壊や経営者の世代交代などを経て国内至上主義がはびこり、海外展開にも二の足を踏むようになった。ポストコロナに向けた海外メーカーの俊敏な動きを察知できなかったのも、そうした内向き志向が災いしている。

 家電産業は自動車と並ぶ日本の輸出産業の二本柱だったが、今回のIFAを見る限り、その影はなくなってしまった。もちろん海外の見本市に出展しないからといって「日本の家電産業が終わった」というのは乱暴な議論だが、世界中から多くのバイヤーやジャーナリストが集まる場に軒を並べなければ、いくら製品がよくても市場では話題に上らなくなる。

海外市場を攻めるには
〝したたかさ〟が求められる

 日本の家電産業は今後どうすればよいのか。まずは単品の家電製品ではなく、AIやネットワークでつないだスマートホームとして訴求していくことだろう。海外ではすでにGAFAなどが推すスマートホーム規格「Matter」や、韓国やトルコなどの家電メーカーによる相互接続規格「HCA(ホーム・コネクティビティー・アライアンス)」といった標準化が進んでいる。

 一方、日本メーカーはスマートホームでも独自技術にこだわり、各社がバラバラな規格を採用している。HCAには米国や欧州のメーカーも名を連ねるが、日本企業は1社も参加していない。電気自動車(EV)の急速充電規格「CHAdeMO」も海外では米テスラの規格に置き換えられつつある。海外市場を攻めるには世界の競合企業とも手を携える〝したたかさ〟が求められよう。

 量産品としての家電製品で戦えないなら、プレミアムブランドに姿を変えていくか、コンテンツやサービスなど異なるレイヤーに事業モデルを移していく戦略も必要だ。その成功事例がソニーや米アップルで、音楽や映画、ゲームなどに軸足を移すことでより高い収益性を得る企業に変身した。

 最後の手は海外の家電事業からは撤退するという選択肢だ。その意味では実態が先行しており、東芝は白物家電事業を中国メーカーの美的集団(Midea)に売却、日立製作所も洗濯機など国内向けの家電事業は維持しつつ、海外向けの家電事業は合弁会社を通じ21年にトルコのメーカー、アルチェリクに売却してしまった。

 アップルや米グーグルの携帯端末やサービスを毎日当たり前のように使う若い世代にとっては、日本の家電製品が海外で羨望の眼差しで見られていたというのは昔話でしかない。30年前の話を引き合いに出す方が時代錯誤だといわれかねないが、このまま日本の家電ブランドが海外で消えていくことにやるせないものがある。来年はIFA創設100周年とあって日本メーカーには出展のラブコールがかかるが、コロナ禍が収束した今こそ日本の家電産業の底力を見せてほしい。

   
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

Wedge 2023年11月号より
日本の教育が危ない 子どもたちに「問い」を立てる力を
日本の教育が危ない 子どもたちに「問い」を立てる力を

明治国家の誕生以来、知識詰め込み型の画一的な教育が行われ、日本社会には〝正解主義〟が蔓延するようになった。時を経て、令和の日本は、数々の前例のない課題に直面し、従来の延長線上に「正解(アンサー)」が見出しにくく、「自らが『問い』を立て、解決する力(ソリューション)」が求められる時代になっている。一方、現代を生きる子どもたちの状況はどうか。学校教育は「質の低下」が取り沙汰され、子どもたちは外遊びよりも、塾通い、宿題に次ぐ宿題で、〝すき間〟時間がない。本当に、このままでいいのだろうか。複雑化する社会の中で日本の教育が向かうべき方向を提示する。


新着記事

»もっと見る