世界第二のEV市場である欧州はどうか。欧州自動車工業会の発表によると、23年1~10月のBEV新車登録台数は前年同期比53.1%増の約120万台。絶好調に見える。
ただし、10月だけに限ると前年同月比36.3%増とペースは落ちている。特に欧州域内最大の市場であるドイツは急ブレーキがかかっており、10月の新車登録台数は4.3%増にまで減速している。
この成長鈍化が長期的な傾向なのか現時点で断言するのは早計だろうが、独フォルクスワーゲンが大型バッテリー工場の建設計画を保留するなどメーカーにも慎重姿勢が広がってきた。また、このままのペースでEVを推進し続ければ、中国メーカーに席巻されるとの不安も広がりつつあるという。
そして、中国だ。世界EV販売台数の過半数をたたき出す、世界一のEV大国だ。23年1~10月のBEV販売台数は前年同期比25.2%増の516万台と快進撃は続いている……のだが、実はこの数字は輸出も含めたもの。国内市場での販売台数はかなり成長が鈍っており、今年8月からは48万台前後で停滞が続いている。
なぜ中国は世界一のEV大国となったのか
世界のEV市場を牽引してきた中国の停滞は何に起因しているのか……を考える前に、まず、そもそもなぜ中国ではこれほどEVの普及が進んだのかを抑えておきたい。俗に「補助金をばらまいているから」と言われることが多いが、ピントを外している。EV購入補助金は2010年から始まったが、どれだけ金をばらまいても一般市民が買いたがらなかった。
EVを売ったふりをして補助金だけせしめるディーラーなどの不正もあり、税金の無駄との批判が広がり補助金支給額は減らされていった。そうした中、20年後半からのEV大躍進が始まったのだ。驚きの大逆転だが、その主要な推進力を2点にまとめると、「個人空間としての魅力」と「コストの安さ」にまとめられるだろう。
まず、空間についてだが、EVに限らず、中国の車はタブレット並みの大型ディスプレイを備えていることが多い。中高級価格帯だと、助手席や後部座席にもディスプレイが付いていることもある。
このディスプレイは、スマートフォンと同じアンドロイドOSを搭載している。新たなアプリをダウンロードして、動画視聴やゲームなどさまざまなエンタメ体験を楽しめる。基本的にはスマートフォンと中身は一緒なので、「世界一のモバイルインターネット大国」として磨き上げてきた中国のスマホサービスやアプリがそのまんま使える点も強力だ。
スマホで磨かれた音声操作が移植されており、ユーザーインターフェイスも優れている。日系メーカーの新型車両だと大量のボタンがついていて激しく使いづらい。ボタンが増えすぎて意味不明になった、テレビのリモコンのようだ。
一方、中国メーカーはタッチパネルや音声操作で直感的に操作できる。こうした空間としての進化は内燃車でも可能とはいえ、電気が自由に使えてうるさいエンジン音がないEVのほうが魅力は上だという。