それでも天井はある
さすがは世界一のEV大国と感心させられたが、これだけのインフラが中国全土に広がっているわけではない。今年、中国内陸部の貴州省を訪問したが、EVはほとんど走っていなかった。北京、上海だけを見ていると、中国の車の大半がEVに置き換わったのではないかと錯覚するほどだが、地方にいくと状況はまったく違う。
「充電ステーションの数が少ないからEVは買えない」とは現地住民の話。EVが売れているところに充電ステーションが増えるのは当たり前、売れない場所に作るには行政の支援が不可欠だが、地方政府の財力が如実に反映されてしまう。
中国屈指の貧乏自治体として知られる貴州省には難しかったようだ。その結果、EVが売れている地域は上海市を中心とした長江デルタ、広州を中心とした珠江デルタ、そして北京市などの経済発展地域に集中している。
また、こうした先進地域でもEVの急激な増加にインフラが追いつかないとの不安の声も上がり始めている。少なくとも一晩中、充電ステーションに放置が許されるような状況は続かないだろう。
また、充電ステーションへの補助金も縮小されつつある。充電ステーションを使うと、内燃車と燃料代が変わらなくなる時代も近い。だが、いくら政府が旗振りをしても、自宅に充電設備を設置できない人は相当数いるはずだ。新しいマンションならば問題はないだろうが、少し古いところでは「車は適当に路駐」というルールになっているところも多い。この場合はどうがんばっても充電設備は設置できそうにない。
つまりは「EVの使い勝手がいい人」はまだ一部に限定される。この層にいきわたってしまうと、EVの成長が減速する可能性は高いだろう。今年8月からの販売台数足踏みがその天井にさしかかったことを示していても不思議ではない。
前述の中国国内での販売台数はBEVのものだが、これを上回る成長を見せているのがプラグインハイブリッド(PHEV)、レンジエクステンダーEV(REEV)だ。前者はガソリンエンジンとバッテリーモーターの2つの動力源を備えた車、後者は電力切れの時にガソリンで発電できる仕組みを備えた車である。
中国ではBEVと同様にNEV(新エネルギー車)に分類され、同等の優遇措置が受けられる。純粋なEVでは不便なこともあるとの認識が広がったことから、PHEV、REEVの人気が高まっている。
これほどのインフラを築いてきた中国ですら、EV普及のハードルはまだまだ残されている。中国は今後も巨額のEVインフラ投資を進め「EVの使い勝手がいい人」の範囲を拡大していくだろうが、果たして他国で同じことができるのだろうかとの疑問は残る。
米国が中国よりもはるかに普及率が低い段階で成長が止まったように、中国以外の国ではEV普及の天井は想像以上に低いのではないか。となると、唯一、超絶優秀なインフラを整えた中国だけでEVが発展する、中国が巨大なEVガラパゴスになる……という展開もありえそうだ。