2024年5月20日(月)

日本〝サイクル社会〟の現在地

2023年12月1日

台湾から学ぶこと

 シェアサイクルは、既存の交通システムの「革新」を担う。それだけではなく、環境改善、健康増進などによって社会的コストを下げていき、最終的には行政の負担を減らしていくことになる。自転車を使う人が増えれば、いいことだらけなのである。全国民にメリットをもたらす長期的投資といってもいい。

 だからシェアサイクル事業は、新しいビジネスの創出ではなく、官業(公共交通)をアウトソーシングしている、というあたりに本質があるのではないか。

 「行政に資金はない」という声が聞こえてくるかもしれない。だが、要はやりようだ。

 シェアサイクルの先進地であり、YouBikeの年間延べ利用回数が1億回に達するようになった台湾のなかで、急激に利用者を伸ばしている高雄市では、こんな方法でシェアサイクルのための公的資金を捻出している。それは市営駐車場(コインパーキング)の収入を、YouBikeへの委託予算支出に充当する方法である。

台湾では、シェアサイクルが交通インフラの一部となっている

 クルマの移動で市民が払っているコストを、交通環境の改善に活用するという理屈である。東京にもたくさん警察の関係団体が運営するパーキングメーターがある。そこには一定の収入が生まれているだろう。それをシェアサイクルの活用に転用してはどうだろうか。そうすれば、路肩を占拠して自転車にとって決して有り難くないパーキングメーターだが、多少は許せる気になってくるはずである。

 台湾では高雄市のみならず、シェアサイクルの普及が行政の役割として認知されており、システム障害などが起きると行政も業者もメディアや市民から強い批判が集まる。逆にいえば、それぐらい市民のインフラとしての位置を獲得している。行政が公的資金を経常的に投じる関与を行ない、それが市民にライフスタイルの変化を引き起こし、さらに注目を集めるという好循環を生み出しているからだ。

 日本のシェアサイクルの社会的認知度が一定のレベルに達したいま、成長戦略の第二段階に入るべき時期にきている。国交省もそのあたりをわかっていて、自治体や業者向けに「シェアサイクル事業の導入・運営のためのガイドライン」を9月に策定し、公表している。

 導入中、または導入を検討するどの自治体も留意が必要なのは、交通インフラの革新は基本的に行政がリードすべき仕事であり、シェアサイクルは「交通」の一部であるという点だ。レジャーが本質ではない。その初心に立ち返った施策を望みたい。

   
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