2024年12月22日(日)

2024年米大統領選挙への道

2024年7月22日

アトランタのマヌエルズ・タバーンで、ジョー・バイデン大統領が大統領選から撤退するニュースを見ている人々。バイデン大統領は7月21日、選挙戦から撤退し、再選への挑戦を中止した(AP/AFLO)

 7月13日に東部ペンシルベニア州で発生した暗殺未遂事件後、共和党大統領候補に指名されたドナルド・トランプ前大統領は、演説の中で「神」について語るようになった。その理由には、一体何があるのか。また、選挙戦と神はどのように関係するのだろうか。さらに、バイデン大統領の撤退という異例の事態の中で、後継者になるとみられるカマラ・ハリス副大統領には、どのような対抗策があるのだろうか?

 まずは、今回の共和党全国大会からみていこう。

MAGA全国大会

 7月15日から18日まで中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーで開催された共和党全国大会で、「共和党が一丸」となったという評価がある。しかし、マイク・ペンス前副大統領、ポール・ライアン元下院議長、ジョージ・W・ブッシュ元大統領、ディック・チェイニー元副大統領、2012年共和党大統領候補であったミット・ロムニー上院議員等の重鎮や穏健派は、今大会に参加しなかった。トランプ前大統領のMAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大にする)運動を支持する党員による大会であったのだ。言い換えれば、「MAGA全国大会」とみられても当然だ。

 MAGA運動を支持する共和党員には、「米国は国内問題に焦点を当てて、世界の出来事における米国の役割を減少させるべきである」という考えが強い。ちなみに、米公共ラジオ、公共放送およびマリスト大学(東部ニューヨーク州)の共同世論調査(23年11月6~9日実施)では、前回の大統領選挙でトランプ氏に投票した有権者の57%が、上の声明に賛成を示した。とういことは、孤立主義者の集まりであったとも見ることができる。

 米有力紙ワシントン・ポストによれば、2021年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件に加わった活動家が、今大会に複数名参加していた。さらに、2020年米大統領選挙において西部ネバダ州で、トランプ氏が勝利したと誤った主張をした「偽選挙人」の一人である同州の共和党委員長マイケル・マクドナルド氏が、代議員として参加していた。マクドナルド氏は検察官によって起訴されたが、24年6月ネバダ州クラーク郡地方裁判所のメアリー・ケイ・ホルサス裁判官によって訴訟は却下された。

 しかし、上記の事実を含めて角度を変えてこの大会をみると、米連邦議会議事堂襲撃事件という政治的暴力の容認と今回の米大統領選挙の結果を覆すという陰謀論を全面的に否定しない大会であったと言える。

「新しいトランプ」は失敗

 トランプ前大統領は、共和党大統領候補受諾演説の冒頭、約20分を費やして、暗殺未遂事件について、トーンを抑えながら自らの口で物語り風に語った。ストーリーテリング(物語りを語る)という手法を用いて、MAGAを自分に引き付け、無党派層まで支持層を拡大するという狙いが透けて見えた。

 つまり、トランプ前大統領は約20分かけて、暗殺未遂事件を機に「生まれ変わったトランプ」を演出したのだ。

 約90分に及ぶ共和党大統領候補受諾演説では、トランプ前大統領は「バイデン」という言葉を1回使用したのみであった。しかもその1回は、原稿になかったにもかかわらず、思わず「バイデン」と口を滑らせてしまい、「二度と言わない」と語ったほどである。

 トランプ前大統領が、このバイデン大統領の名を発することを封印したことは、穏健なイメージを出して、「団結」を求めるのに必要なことであったからだ。

 受諾演説でトランプ陣営は、暗殺未遂事件により「新しいトランプ」を打ち出し、無党派層を獲得する絶好の機会を与えられたとみていたようだ。

 しかし、この演出は見事に失敗した。トランプ前大統領は、演説の後半でナンシー・ペロシ前下院議長を「クレージー」と呼び、「10人の(過去の)ひどい大統領を合わせても、バイデンの方がひどい」と強調し、「いつものトランプ」に戻ってしまったのだ。

 受諾演説を聞いた米アトランティック誌のマッケイ・コピンズ氏は、「新しいトランプは、常に古いトランプであった」と評した。


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