2024年米大統領選挙における1回目の民主・共和両党の大統領候補によるテレビ討論会(ディベート)は、6月27日(現地東部時間午後9時 日本時間翌28日午前10時)に南部ジョージア州アトランタで行われる。通常だと、夏の全国党大会で、正式に両党の大統領候補が決定し、その後、秋にテレビ討論会が開催されるのだが、今回の大統領選挙では、党大会の前に討論会が実施されるという極めて異例のスケジュールが組まれた。
なぜ、そうなったのか。テレビ討論会で、ジョー・バイデン大統領とドナルド・トランプ前大統領は、どのようなディベート戦略を立て、どのように自分と相手を描くのか。そして、討論会の結果は――。
その前に、今回のテレビ討論会そのものについて少し話してみよう。
若者とテレビ討論会の役割
民主・共和両党の大統領候補によるテレビ討論会は、大学を会場として開催されるのが通例だ。討論会の会場となった大学のキャンパスでは、学生が支持する候補の名前を印刷したボードを掲げて支持を訴え、キャンパスは熱気に溢れる。
また、大学の名前と討論会の文字が印刷された記念のTシャツやジョッキ、ステンレス製のマグ水筒等が、メディア関係者に配布される。加えて、業者がやって来て、陣営のバッジやTシャツを販売する。学生は、キャンパス内に設置された大型のスクリーンで討論会を観て、支持する候補を応援する。
2012年のバラク・オバマ大統領とミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事(共に当時 以下同様)によるテレビ討論会は、1回目はデンバー大学(西部コロラド州)、2回目はホフストラ大学(東部ニューヨーク州)、3回目はリン大学(南部フロリダ州)で開催された。一方、副大統領候補であったジョー・バイデン副大統領とポール・ライアン下院議員(中西部ウィスコンシン州)の討論会は、センター・カレッジ(南部ケンタッキー州)で行われた。
筆者は上記の全ての討論会の会場に行き、ヒアリング調査を行った。さらに、リン大学があるフロリダ州ボカラトンでは、研究の一環として戸別訪問に参加した。
テレビ討論会の会場となる大学は、日本はもとより米国でもあまり名を知られていない大学が多い。大学側は、大学の知名度を高めるために会場の誘致に必死になるのだ。センター・カレッジは過去に実績を残したので、12年のテレビ討論会は2回目の開催となった。
このようにして、米国では大統領選挙におけるテレビ討論会は、若者の政治に対する関与や士気を高める重要な要素となってきたのである。
ところが、今回のバイデン大統領とトランプ前大統領のテレビ討論会は、大学のキャンパスではなく、米CNNニュースのスタジオで行われることになった。1回目のテレビ討論会を主催する予定であった南部テキサス州立大学サンマルコス校は、若者の政治参加や同大学の知名度を高める機会が失われたことに落胆しているだろう。
テレビ討論会と世論調査
では、1回目の討論会において、どのような基準で参加者を決めたのだろうか。主催者の米CNNが決定したところでは、参加条件には登録した有権者ないし投票に行く可能性が高い有権者を対象にした全国世論調査の中で、4つの調査結果において支持率が少なくとも15%以上なければならないという一項が含まれている。
米CNN、ABCニュース、CBS ニュース、FOXニュース、マーケット大学法科大学院(中西部ウィスコンシン大学)、モンマス大学(東部ニュージャージー州)、NBCニュース、米紙ニューヨーク・タイムズ/シエナ大学(東部ニューヨーク州)、米公共ラジオ/公共放送/米マリスト大学(東部ニューヨーク州)、クイニピアック大学(東部コネチカット州)、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルと米紙ワシントン・ポストによる世論調査結果が、参加資格の基準となる。ラスムセン、インサイダーアドバンテージやトラファルガーといった共和党候補に有利な数字を出す世論調査機関は含まれていない。
これらの世論調査の結果、第3 の候補ロバート・ケネディ・ジュニア氏は、参加資格を得られなかった。1回目の討論会は、バイデン大統領とトランプ前大統領の一騎打ちになることが決定した。
テレビ討論会のフォーマット
次にフォーマットである。テレビ討論は90分で実施される。これまでの討論会のフォーマットとは異なり、各候補による冒頭の発言はなく、司会者を務めるCNNのキャスターであるジェイク・タッパー氏とダナ・バッシュ氏の質問から直接入る。その質問に対して、バイデン大統領とトランプ前大統領は、各々2分間で回答する。次に、両氏による反駁が1分間なされる。最終弁論は、各候補に2分間、割り当てられている。
90分の討論の間に、コマーシャルが2回入る予定だが、その間、バイデン大統領とトランプ前大統領はスタッフとの接触が禁じられている。両氏は、スタッフから戦略的なアドバイスを受けることができない。
今回の討論会の特徴の1つは、相手が討論している間、自分のマイクは切られていることである。このルールは、バイデン陣営が提案し、受け入れられたものである。トランプ前大統領は、相手の回答時間であるのにも拘わらず、自分の意見を述べてルールに従わないからである。
また、スタジオには聴衆がいない。これもバイデン陣営が提案したものだと言う。聴衆が賛成する意見に対して、拍手をし、声を出して、度々討論が中断される恐れがあるからである。
しかし、それ以上にバイデン陣営が懸念したのは、トランプ前大統領が聴衆を味方につけて討論を行うことだろう。
バイデン大統領にとって不利とみえる条件は、フリップや事前のメモの持ち込みが許されないことである。メモ用紙、ペンおよび水は用意される。バイデン大統領の記憶力がしばしば問題となる昨今では、これが討論の際の不安要因になる。