2024年11月22日(金)

2024年米大統領選挙への道

2024年6月25日

トランプに不利な2条件

 トランプ前大統領は、上で述べた2つの不利な条件を受け入れた。バイデン大統領に討論で勝てる自信があるのか、あるいは不利な条件をのんでも、バイデン氏と討論を行いたのか。いずれにしても、激戦州での支持率で、バイデン大統領をリードしているトランプ前大統領は、今がバイデン氏を叩く絶好の機会とみていることは確かだ。

 一方、支持率でトランプ前大統領を追うバイデン大統領は、早い段階でテレビ討論会を開催し、選挙の流れを変えたいと考えたのではないだろうか。つまり、バイデン大統領とトランプ前大統領の思惑が一致し、異例の早期でのテレビ討論会開催に至ったと言える。

支持率に変化

 ただ、ここに至って、支持率に僅かな変化が見られる。保守系メディアFOXニュースの最新の全国世論調査(24年6月14~17日実施)では、バイデン大統領がトランプ前大統領を2ポイントリードした。また、トランプ氏寄りの米紙ニューヨーク・ポストの全国世論調査(同月11~14日実施)でも、ケネディ氏を含めた支持率で、バイデン大統領がトランプ前大統領を2ポイント上回った。

 この変化をもたらしたものは何か。

 バイデン大統領は、フランスでのノルマンディ上陸作戦(D-デー)80周年記念式典で、民主主義擁護の演説を行った。また、イタリアでのG7サミット(主要国首脳会議)では、ウクライナと2国間協定に署名し、ボロディミル・ゼレンスキー大統領と共同記者会見を開いた。国際舞台に立つリーダーのバイデン大統領と重罪犯罪人のトランプ前大統領の相違が際立って見えた。

 保守系で反バイデン色の強いFOXとニューヨーク・ポストの世論調査結果は、今後、無党派層がバイデン大統領を大統領、トランプ前大統領を重罪犯罪人というレンズを通じて見れば、バイデン氏の支持率が上がることを示唆している。

コイントスと演壇の選択

 上で述べたように、今年のテレビ討論会は舞台の表でも裏でも、すでに両陣営の駆け引きが行われてきた。1960年の「ケネディ対ニクソン」の対決以来、テレビ討論会は、政策論争と同様、有権者の受ける印象と心に残るフレーズや発言の順番が、テレビ討論では重視されてきた。加えて、有権者は討論中の「ドラマ」を期待している。

 今回、バイデン大統領はテレビ画面の右側に立つことになった。司会者からみて、右側ないし左側の演壇に立つのかは、コイントスで決める。

 米CNNは6月21日、バイデン陣営がコイントスで勝ち、テレビ画面の右側の演壇を選択したと報道した。その結果、最終弁論はバイデン大統領、トランプ前大統領の順番になった。最終弁論は後攻が有利だ。

 ちなみに、南部バージニア州第11選挙区の民主党予備選挙で84%の得票率で圧勝した現職のジェリー・コノリー下院議員に、討論会における演壇の選択について聞いてみると、コノリー氏もテレビ画面の右側の演壇を選択すると答えた。その理由は、「カメラのアングル」だと言う。つまり、良い構図や光などを得て、候補の様子がより引き立てられる訳である。

 インドの有力紙タイムズ・オブ・インディアは、視聴者は画面の右側に視線を向ける傾向があるので、バイデン陣営は右側の演壇を選択したと分析した。同紙は米国では、テレビ司会者は右側、ゲストは左側に座るのが一般的だとも指摘している。

 上記の演壇の選択以外にも、テレビ討論会ではコイントスは、最初の質問にどちらの候補が最初に回答するのかにも用いられる点を加えておきたい。2012年米大統領選挙では、コイントスによってオバマ大統領は最初の質問の回答を、ロムニー前知事は最終弁論の後攻を選んだ。

「大統領VS.重罪犯罪人」

 米世論は今回のテレビ討論会における勝者は、バイデン大統領とトランプ前大統領のどちらになると見ているのか。英誌エコノミストと調査会社ユーガブの全国共同世論調査(24年5月19~21日実施)によれば、「どちらがテレビ討論会で勝つと思いますか」という質問に対して、バイデン大統領28%、トランプ前大統領43%、「引き分け」8%、「分からない」21%であった。トランプ前大統領がバイデン大統領を15ポイントも上回った。

 逆に言えば、トランプ前大統領に対する期待値が高く、それがバイデン大統領のアドバンテージとなっている。

 では、バイデン大統領はどのような戦略で、トランプ前大統領に対抗するのだろうか。まず、バイデン大統領は大統領らしく振る舞うと考えられる。つまり、「威厳」「誠実さ」並びに「信頼性」を有権者に感じさせる。

 そして、ニューヨーク州の地裁で、34全ての罪で有罪となったトランプ氏を「重罪犯罪人」として描く戦略を選択するだろう。「大統領VS.重罪犯罪人」という対立構図を作り、鮮明化するのだ。

 その狙いは、トランプ前大統領の不正直と信頼性の欠如に焦点を当て、それがいかに米大統領として不適格か主張する。90分間に、バイデン大統領は重罪(felony)という言葉を複数回使用する可能性がある。そして、「重罪犯罪人がホワイトハウスの主になっても良いですか」と、視聴者に向かって質問を投げかける。

 実は、バイデン大統領が上の戦略をとる伏線がある。バイデン陣営は6月17日、新しい政治広告を打った。その広告を観ると、「この選挙は自分のことばかり考えている重罪犯罪人と、あなたの家族のために戦っている大統領との間の選挙だ」というメッセージを送っているからだ。

 次のテレビ討論会では、バイデン大統領は有権者、特に無党派層の女性、郊外に住む女性およびヘイリー支持者に「トランプ=重罪犯罪人」という意識を植え付け、彼女らの票を獲得する戦略に出ると考えられる。


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