2024年12月6日(金)

都市vs地方 

2024年7月6日

 明治神宮外苑の再開発について、事業者のひとつである伊藤忠商事は異例ともいえる長文のコメントを公式サイトで発表した。抗議活動として、関連施設への落書きや株主総会での質疑応答で環境活動家が持論を展開したことへ、再開発の意義や緑の保全への取り組みを改めて説明している。
 神宮外苑の再開発については、あす投開票の東京都知事選でも争点の一つとなっている。樹木の伐採は問題なのか。改めて冷静な議論が必要である。2022年9月5日掲載の「樹木伐採だけではない 明治神宮外苑再開発が抱える課題」を再掲する。

 老朽化が進む神宮球場や秩父宮ラグビー場の建て替えを含む明治神宮外苑再開発計画が進められている中、計画の樹木伐採の部分に懸念の声が上がっている。これに対し事業者は伐採本数を減らす方針を示し、東京都の環境影響評価審議会も2022年8月、事業者に環境保全措置の徹底を求める答申をまとめた。小池百合子知事は事業者に「未来につなげる街づくりに真摯に取り組んでいただきたい」と表明した。

神宮外苑で人気の高いイチョウ並木。再開発の際の樹木の伐採が指摘されている(show999/gettyimages)

 今回の神宮外苑再開発計画は適切なものであったのだろうか。明治神宮の成り立ちやまちづくりとしてのあり方から考えてみたい。

明治神宮における内苑と外苑の役割分担

 もともと明治天皇を神として祀ると決めたとき、「内苑」が明治神宮の社殿がある森、「外苑」が緑に囲まれたスポーツ・レクリエーション施設と位置づけられた。実際、外苑は1964年、2021年と2度のオリンピック・パラリンピックで主競技場を担った。

 内苑外苑どちらも明治神宮という神社の所有である。憲法の政教分離原則により老朽化した神宮球場等を公費の補助によって建て替えることはできない。

 そこで2度目の東京オリンピック・パラリンピック開催決定後、都が示した神宮外苑を対象とするスポーツ・クラスター構想を受け、明治神宮と周辺の土地所有者等が共同して都市計画を提案し、都・区の担当者らと長い協議を経て都市計画決定したのが今回の計画である。

 この計画の提案を受けて、東京都の都市計画審議会では先に、既存の樹木をできるだけ残すという意見を共有しつつ、明治神宮外苑のスポーツ施設を更新する今回の計画を是とした。

検討すべき部分最適と全体最適という考え方

 経営学の世界に部分最適と全体最適という考え方がある。方針や計画は、ひとつの部門にとって最適であるだけでなく、他の部門を含めた全体の最適と調和する必要があるという考え方である。

 一般に民主主義のルールとしては、少数意見は尊重され耳を傾けるが、最終的な結論は多数決に従うことになる。だから部分最適と全体最適という考え方は民主主義社会にとっても大切なルールである。

 もちろんこれらは相対的な問題であり、部分最適の方に社会の価値観が一致することもあるので一概にはいえない。ただ、神宮外苑の問題については、全体最適はとても大切である。


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