「川崎区の臨海部で起きていることは、今後の日本で起きることを象徴している」。そう語るのは『ルポ 川崎』(サイゾー)が大反響を呼んでいる、音楽ライターの磯部涼氏。現在、日本のヒップホップシーンで一大旋風を巻き起こしている川崎区出身のBAD HOPを中心に、川崎で生きる若者たちの証言を綴った同書では、我々の想像をはるかに超えるエピソードが多々登場する。磯部氏に川崎のリアル、地域コミュニティが機能し多文化共生が進んでいる理由などを中心に話を聞いた。
――昨年12月に出版され現在は6刷り。これだけ売れた理由をどう分析されていますか?
磯部:川崎市の人口は2017年に150万人を越えました。都道府県庁所在地を除いた政令指定都市では最も多い。北部はいわゆるベッド・タウンで、近年は中部・中原区の武蔵小杉駅周辺も開発が進み、タワーマンションが次々と建設されている。映画『シン・ゴジラ』でゴジラが襲来したことが象徴するように、いま最も注目を集めている地域です。また、南部・川崎区の川崎駅周辺もラゾーナ川崎を始めとした商業施設が賑わっている。
しかし、その川崎駅から程近い場所で、15年に中1男子生徒殺害事件や11人が死亡した簡易宿泊所火災が起き、ネットでは無法組織・イスラム国に重ね合わせて「川崎国」などと揶揄されるようになります。
このように相反するイメージを持つ川崎とは一体どんな街なのか気になった、というのが多くの人に手にとってもらった理由かなと思います。
――今回の本では、特に川崎区の臨海部に焦点を当てています。どんな場所なのでしょうか?
磯部:川崎区臨海部は京浜工場地帯の要です。戦前から高度経済成長期にかけて、そこで働くため全国各地よりたくさんの労働者が集まってきました。
また、その中には在日コリアンもいて、彼らがコミュニティを形成したのがおおひん地区と括られる、桜本、大島、浜町、池上町の辺りです。あるいは、住民は長い間、公害に苦しめられてきました。
駅前に目を向けると、繁華街では工場労働者のために「飲む、打つ、買う」といった業種が発展、そこを仕切るために暴力団の力が強くなったという側面もあります。そして、現在では日本の発展を支えた労働者も高齢化が進み、生活保護を受けて簡易宿泊所に寝泊まりしている人も多い。
この本の感想として、時折、「川崎の極端な面ばかり取り上げている」という意見を頂戴します。確かに、武蔵小杉やラゾーナのイメージが念頭にある人にはそう思えるのかもしれません。ただ、ある世代の人には川崎というと「公害」「ヤクザ」「ホームレス」というイメージが強くて、それが近年の再開発で覆い隠されているというのが現実です。中1男子生徒殺害事件や簡易宿泊所火災は言わばその現実が露呈したものだと言えるでしょう。