木を伐採するべきでないという主張が部分最適とすれば、公費を投入しないでもうすぐ築100年になりバリアフリー設備も完備していない野球場等を、外苑全体の緑化レベルを強化しながら現代的なデザインにつくりかえる今回の計画が全体最適である。
今回の神宮外苑の計画をめぐっては、できるだけ樹木を伐採すべきでないという意見以外に、明治神宮は内苑外苑とも神社の所有である、従って公による補助は憲法によって禁止されている、内苑は社殿の森であり外苑はスポーツの森である、築後100年近くを経て老朽化した球場等の建替えが急がれる、など多くの課題がある。これらを同時に解く方程式が要求された。
明治神宮と神宮外苑の「緑」の違い
東京都心に緑が多い印象が強いのは、皇居から西に向かって赤坂御用地、神宮外苑、新宿御苑、明治神宮、代々木公園が連続しているからである。神宮外苑の南側には少し離れて青山霊園の緑もある。
明治神宮の森は約70ヘクタールと大きな森である。この森の中の地形は起伏に富んでいて池もある。東京農業大学名誉教授・田中正大氏の『東京の公園と原地形』(2005年、けやき出版)によれば、明治神宮の敷地の中をいくつかの川がながれ、湧水もありこれらを生かして明治神宮の森が人工的につくられた。
もともとあった樹林は全体の5分の1程度であり、それ以外は農地や草地であった。全国から寄せられた献木で構成された森は、当時の写真では空ばかりが目立つ森だったが、数十年で立派な神社の森となった。
一方、神宮外苑は,現在平坦地である。外苑をスポーツ・レクリエーション施設とするため、いくつかの川や谷を埋め立て平地としたものである。絵画館前の4列のいちょう並木は、外苑を通る都道の並木となっている。1列34本、合計126本の樹姿が見事に揃っているのは、植樹の前から苗圃において綿密な管理をしたからだという。
神宮外苑には絵画館や明治記念館があるが、スポーツ競技場が主軸をなす。明治天皇が尚武剛健の気風をもっていたことを記念すると共に、一般大衆に運動競技の場を提供しようという考え方が外苑計画の大きな使命としてあったことによる。
明治神宮の緑も神宮外苑の緑もどちらも明治神宮のものだが、性格が大きく違う。明治神宮の緑は神社の緑だが外苑の緑はスポーツ・レクリエーション施設の緑なのである。
求められた民間の関与
国立競技場は「2020年五輪」のために建て替えられたが、大問題は、そのほかの1926年建築の神宮球場や1947年建築の秩父宮ラグビー場をどう建て替えるかということだった。そこで関係者は,東京都の公園まちづくり制度の利用を考えた。
公園まちづくり制度は、都市計画では公園とすることが決定されているが、高地価の都心部で公費での用地買収が見込めず、まだ公園となっていないところを対象に、民間による都市開発の機会を与えたものである。まちづくりと公園・緑地の整備を両立させるために都が2013年に創設した。
具体的には、当初の都市計画決定から概ね50年以上が経過したもののまだ公園となっていない面積2ヘクタール以上の地域を対象として、開発区域の中で一定の緑地等を確保することを条件に、都市計画公園から外すものである。