2024年7月27日(土)

BBC News

2024年7月27日

ソニア・オクスリー、BBCスポーツ(パリ)

パリ・オリンピック(五輪)の開会式が、26日午後7時半(日本時間27日午前2時半)から約4時間にわたって開かれ、大会が華々しく幕を開けた。何千人もの選手たちが船に乗ってセーヌ川を進み、橋や川岸、川沿いの建物の屋根の上などで生き生きとした動きを見せるパフォーマーたちの前を通り過ぎるという野心的な演出がなされた。

開会式がスタジアム以外で開かれたのは初めて。「地上最大のショー」の開始を告げるスペクタクルは、フランス柔道男子の偉大な選手テディ・リネールさんと、同陸上女子元スプリンターのマリー=ジョゼ・ペレクさんが、熱気球の形をした聖火台に聖火を点火し、聖火台がパリの空高く舞い上がることでクライマックスを迎えた。

式典のスタートでは、オステルリッツ橋が花火で、フランス国旗のトリコロール(赤、白、青)に彩られた。続いて、205の代表団の選手6800人が、85隻のボートや船に乗って、フランスの首都の有名なランドマークを通過した。

開会式では終始、見る人を驚かせるパフォーマンスが続いた。アメリカのシンガーソングライターのレディー・ガガさんがキャバレーナンバーを披露し、カナダを象徴する歌手のセリーヌ・ディオンさんが感動的な舞台復帰を果たした。

この日、フランスでは鉄道網が放火の被害に遭い、夕方には大雨が降った。太陽を利用して「水を輝かせる」という、芸術監督のトマ・ジョリーさんの当初の計画は実現しなかった。

降りしきる雨によって、選手たちはそろいの服装の上にポンチョを着けたり、傘を使ったりせざるを得なかったかもしれない。それでも、2000人近いミュージシャン、ダンサー、アーティストらが表現したフランスの歴史、芸術、スポーツをめぐる活気あふれる旅は、損なわれることはなかった。

船によるパレードの最後の2隻は、次の2028年ロサンゼルス五輪・パラを開催するアメリカと、フランスだった。これらの船には最多の選手団が乗った一方、いくつかの船には数カ国の代表団が一緒に乗った。

イギリスの旗手は、ローイング女子のヘレン・グローヴァーさんと、飛び込み男子のトム・デイリーさんが務めた。日本の旗手は、フェンシング女子サーブルの江村美咲さんと、五輪初採用のブレイキン男子のSHIGEKIX(半井重幸)さんだった。パリでの五輪開催は100年ぶり 3度目。

第33回となる今回の夏季五輪は、国際的にも国内的にも厳しい政治情勢を背景に開催される。開幕にあたり、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は、選手たちが「平和のうちに世界をひとつにするイベントの一部」になったと述べた。

今大会は、選手1万500人超が32競技に出場し、8月11日に閉幕となる。

パリが五輪初の試みを成功

開会式を通常のスタジアムではなく、パリ中心部のセーヌ川沿いで開催すると主催者側が計画を発表した当初は、眉をひそめる人や、大規模な警備をどうするのかと疑問の声を上げる人も出た。

セーヌ川の水質には厳しい目が向けられてきた。さらに、何千人もの選手たちを川沿いに6キロメートルにわたり、リハーサルなしに移動させるという構想だけでも、野心的に思えた。

しかし26日夜、何万人もの警官による警備に支えられ、パリは見事にこの計画を成功させた。

奇妙に思える場面もあった。ピンクと黒の羽に囲まれたレディー・ガガさんがフランス語で歌ったかと思えば、続けてボート上のバングラデシュの選手たちが紹介された。

多くの時間は見事なまでに熱狂的で、またある時は感動的だった。

直近の1週間は晴天だったが、この日のパリは残念な天気となった。それを考えると、式典の冒頭に映像で、オリンピックの聖火が予定通りに到着しないのではないかというストーリーが展開されたのは、ぴったりだった。

聖火ランナーがスタッド・ド・フランスに聖火を持ち込むのではないというメモを受け取らなかったり、フランス元サッカー男子代表のジネディーヌ・ジダンさんが聖火を運んでいる最中に地下鉄の列車が故障したりしたのだった。

その後、バレエ、カンカン、オペラ、有名な芸術作品などが繰り広げられ、ミニオンズまで登場した。その間、船団はアウステルリッツ橋からポン・ディエナに向かい、覆面をした聖火ランナーが屋根の上を走ったり、ジップライニングをしたりしているのがたびたび映し出された。

旗を振る選手たちを乗せた船はさらに、ルーブル美術館、エッフェル塔、グラン・パレ、凱旋門といった有名なランドマークを通過し、12の芸術的な演出テーマでもてなされた。

その1つは、2019年に火災で被害を受けたノートルダム寺院の再建に焦点を当てた。大勢のダンサーが、再建作業から取った音を使って作られた音楽に合わせて踊った。

別のテーマでは、フランスの歴史を探求した。コスチュームを付けた歌手たちが「レ・ミゼラブル」の音楽を演奏し、首のないマリー・アントワネットの聖歌隊がフランスのヘビーメタルバンド「ゴジラ」と共に登場した。

西アフリカのマリで生まれフランスで育ったR&Bスターのアヤ・ナカムラさんも歌を披露した。世界で最もストリーミングされたフランス語の曲をもつアーティストだ。

式典はトロカデロが最終地点となった。近くではエッフェル塔がライトアップされ、仮面をつけた聖火ランナーと機械仕掛けの馬によって複雑な旅を続けてきた聖火が、ジダンさんに戻された。聖火はさらに、スポーツ界のレジェンドのラファエル・ナダルさん、ナディア・コマネチさん、セリーナ・ウィリアムズさん、カール・ルイスさんへと手渡された。

この4人が聖火を船でルーヴル美術館の方へと運ぶと、100歳の金メダリスト、シャルル・コステさんら過去と現在のフランス人選手やパラ選手らがこれを引き継ぎ、最後はリネールさんとペレクさんへと手渡された。

そして、式典はこれ以上魅力的にはなれないだろうと思った瞬間、2人は高さ30メートルの熱気球の聖火台に点火した。聖火台はその後、パリの上空で浮いているように見える。

しかし、魔法のような瞬間はもう1つあった。ディオンさんがエディット・ピアフの「愛の讃歌」を力強く歌い上げ、エッフェル塔の観衆を沸かせたのだ。ディオンさんがパフォーマンスを見せるのは、2022年12月に深刻な神経疾患を公表して以来、初めてのことだった。

「戦争で引き裂かれた」世界での平和求める

IOCのバッハ会長はスピーチで、「戦争や紛争で引き裂かれた世界において、私たち全員が今夜一堂に会することができるのは、この連帯感のおかげだ。全206の国内・地域オリンピック委員会の選手とIOC難民選手団を団結させるものだ」と選手たちに言った。

これよりも前に開会式の中では、漂流するいかだの上でジュリエット・アルマネさんが歌う故ジョン・レノンさんとオノ・ヨーコさんの「イマジン」の最初の音が鳴り響くと、パリは暗闇に包まれた。

この平和の賛歌は、五輪が伝える団結と寛容のメッセージに合致するもので、近年のすべてのオリンピック開会式の一部となっている。

紛争の影響はオリンピックでも感じられる。ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシア人とベラルーシ人は出場が禁止された。パリ五輪には、ロシア人選手15人とベラルーシ人選手17人だけが個人の中立選手(AIN)として出場する。ただ、開会式のパレードにはそれらの選手は参加しなかった。

この日の開会式の最も大きな歓声は、難民選手団とパレスチナ・オリンピック委員会の選手たちに向けられた。

式典にはキア・スターマー英首相やエマニュエル・マクロン仏大統領ら、100人を超える各国首脳らが出席した。

(英語記事 Opening ceremony lights up Paris in unique style

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cx92kpqezdjo


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