2024年11月17日(日)

Wedge REPORT

2023年11月22日

 コロナ禍を経て、内外の観光客が戻ってくるにつれて、観光客の増加が住民生活や地域生活に悪影響を及ぼす「オーバーツーリズム」が論点となってきている。この問題は観光振興を国家戦略とする日本にとってすべての地域に当てはまるものであり、観光事業社だけでなく、観光資源を持つすべての自治体、地域の企業にとっても重要なテーマである。今、対策が政府の会議でも話し合われているが、そもそもその対象が何でありどのような問題があるのかをよく理解し分析しておく必要がある。今回はその整理をしてみたい。

(gyro/gettyimages)

実は定義が曖昧な「オーバーツーリズム」

 政府は2023年10月18日、観光立国推進閣僚会議(主宰:岸田文雄首相)を開催し、「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を決定した。パッケージでは「都市部を中心とした一部地域への偏在傾向も見られ、観光客が集中する一部の地域や時間帯等によっては、過度の混雑やマナー違反による地域住民の生活への影響や、旅行者の満足度の低下への懸念も生じている状況であり、適切な対処が必要」という課題認識を提示しており、その対応策として1.観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応、2.地方部への誘客の推進、3.地域住民と協働した観光振興を挙げている。

 これらの対応策は確かに必要だが、いくつか追加的に対応するべき論点がある。また、これらの対応策をどのように具体的に推進するかが難しく、必ずしもその方法論は確立されていない。

 では、オーバーツーリズムとは何であろうか? 実はオーバーツーリズムという用語に対する厳密な定義は存在しない。

 1つの定義は環境容量(Carying Capacity)を超えて、 観光客(もしくは観光関連事業者)が自然や景観、伝統的建築物などの観光資源を過剰に利用することである。この環境容量とは「ある観光地において、自然環境、社会文化にダメージを与えることなく、観光客の満足度を下げずに、一度に受け入れられる観光客数の最大値」である。

 国連世界観光機関(UNWTO)は18年のレポート”Overtourism?"において、「オーバーツーリズムとは、ディスティネーション全体またはその一部に対し、明らかに市民の生活の質または訪問者の体験の質へ過度に及ぼされる観光による悪影響」と定義している。

 日本では、「観光公害」という言葉が国内のリゾート開発ブームが起きた1970年代から使われており、当時は 地方圏のリゾートに押し寄せた都市住民の振る舞いが問題になっていた。かつての観光公害は都市部や先進国から地方圏や開発途上国に対する観光の問題であったが、昨今は都市部の観光地でも観光公害もしくは オーバーツーリズムが問題になってきている。つまり オーバーツーリズムは一部の地域の問題ではなく、全ての地域の問題となってきたのである。


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