2024年12月26日(木)

Wedge REPORT

2023年11月22日

 アクセスの利便性においては、地域内アクセスの利便性も重要なのだが、まずは地域へのアクセスの利便性で区分けをする。キャパが広くアクセスが良いのはパターンAで、例えば京都である。キャパが広めでアクセスが良くないのはパターンBで、札幌や沖縄等の観光が強い中核地方都市である。札幌や沖縄は海外からの直行便もあるのだが、東京や大阪等に比べれば限定されており、天候に左右されやすい。キャパが狭くアクセスが良いのはパターンCで、例えば鎌倉や軽井沢等であろう。キャパが狭くアクセスが良くないのはパターンDで、例えば富士山のような希少自然型の観光地である。

各パターンの具体的な対策とは

 パターンA(キャパが広くアクセスが良い)のオーバーツーリズム対策は、基本的には観光客の来訪総量をコントロールすることは難しいので、観光施設に関しては価格を上げる(無料の場合は有料化する)ことで調整する地域内分散が基本である。

 観光施設を高価格にすることで訪問者の数は管理できるのだが、入れない観光客がその土地の無料の場所へ行くことになる。その際、観光客に対応する準備ができていないところに行くとまた摩擦が発生するので、適切な場所に分散するような誘導やそのデザインが必要になる。

 パターンAはさらに細分化が可能で、観光以外の産業がどの程度発達しているかによって多少対応が変わってくる。観光以外の産業が発達している場合は、観光客を受け入れることが何らかのメリットになる非観光事業者を探して、そこと連携するのも一考である。つまり産業観光として拡張するのである。例えば花王が東京都墨田区で工場見学を受け入れているように、消費財系のメーカーがインバウンド観光客を受け入れる価値を感じてくれるかもしれない。

 観光以外の産業が発達していない場合には、地域住民とのコミュニケーションが重要になってくる。観光客に理解を示すエリアとそうでないエリアの線引きをするといった対応が必要になってくるだろう。地域住民とのコミュニケーションはどのパターンにおいても重要である。

 パターンB(キャパが広めでアクセスが良くない)は適切な価格調整とアクセス制限のバランスを工夫することと、来訪者の平準化が必要となるだろう。地域へのアクセス自体が良くない場合は、一度そこに来訪した観光客の滞在期間が長めになる傾向がある。ゆえに、リピーターとのカスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)を強化し、繁忙期以外のアクティビティ等を増強して観光の平準化を図る必要があるだろう。

 適切な価格調整とは所謂ダイナミック・プライシングであり、繁忙期にアップし、閑散期に下げることである。これは時に顧客信頼度を下げるリスクがあると言われるが、それ故にリピーターとの信頼関係を構築することが重要なのである。

 パターンC(キャパが狭くアクセスが良い)の場合には、観光関係の価格を上げて流入量を制限することが有効である場合が多い。政府の対策パッケージには、輸送力の増強がリストされており、それはパターンAの場合には正しいのだが、それ以外の受け入れキャパが十分ではないところに対して、輸送アクセスを増加するのは危険である。

 アクセスに関してはその観光地域に到達するものと、観光地域内のものの2つがあるが、パターンCでは地域内のアクセスをある程度制限することも必要になる。キャパが狭いということは、そのエリアの特徴が明確である場合が多い。ということは、どのような観光客がフィットするかもある程度明確にし得るだろう。

 この地域のターゲット層はどのような人達なのかを明確に発信し、その狭いキャパでどのように観光客にふるまってほしいかの啓もう・教育が必要であろう。

 パターンD(キャパが狭くアクセスが良くない)は多くの場合希少な観光資源故に観光客をひきつける。そうした観光資源は貴重であり、毀損されると回復するのは困難であり、その観光資源の保全が重要性を持つ。

 故にオーバーツーリズム対策としては、観光客数の制限に加えて、観光客の行動に直接的な規制を行う必要が出てくる。例えば、その場に入る前に手荷物を制限する、消毒をする等、接触の制限等である。それに対して明確に悪印象を与えないように説明することも重要である。

 日本の観光地は多様性に富んでいるのでこのパターン分けではうまく整理できない地域もあるとは思うが、ある程度場合分けをして自地域の状況を考察することによって具体的なオーバーツーリズム対策を立案、予測することがしやすくなってくるだろう。

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