オーバーツーリズムは何が問題か
オーバーツーリズムが発生した場合、さまざまな問題が起こる。日本総合研究所の高坂晶子主任研究員は下記の5つに分類している(『オーバーツーリズム: 観光に消費されないまちのつくり方』学芸出版社、2020年)。
1 観光資源関連の問題:自然・景観の毀損、建物・遺跡などの破損
2 地域社会関連の問題:渋滞、混雑、ゴミ、騒音、悪臭
3 住民 生活関連の問題:治安の悪化、コミュニティの衰退、日常生活への被害
4 経済関連の問題: 観光以外の産業の衰退、物価の高騰、経済活動への妨害
5 伝統・ 文化 関連の問題:文化・ 風俗の変容、生活慣習の変容、ホスピタリティの低下
これらの問題は 地域住民に対しての問題としてのみならず、観光客にも体感され ストレスや疲労につながる。 むしろ、地元の状況を良く知らない観光客の方がより大きなダメージを受ける可能性もある。
例えば、 観光地で飲食店が混雑している時に地元の人のようには飲食店の選択肢を知らずにストレスを溜めるかもしれない。どの論点も適切に対応すれば地域への貢献につなげることができるのだが、対応を間違うと問題になってしまう。
意識されることは少ないかもしれないが、「インフラコストの不均衡」という問題もある。これは、地域のインフラ管理コストの大部分は住民が支払う地方税に基づくため、多くの観光客がこうしたインフラを利用することによって混雑や劣化、破損を起こすことは、一般的に地元住民に不利に働くというものだ。そうした意味で、観光税等はこの不均衡を多少なりとも調整する仕組みとも考えられる。
対策アプローチと特性に応じた対応
オーバーツーリズムの対応策は主には以下のアプローチが挙げられる:
1 制限
・行動規制:観光客の流入数や、特定のエリア立ち入り、観光可能時間等を、条例その他の規則・事前予約制導入・入山許可制度等で制限する。
・アクセス規制:フライト数の制限やクルーズ船の入港制限等で地域へのアクセス自体を制限する。
・キャパシティ制限:ホテル新設や民泊の規制等で宿泊キャパシティの増加を制限する。
・価格による制限:観光に関わる費用を引き上げることで観光客流入数を制限する。需要状況によって価格を変更するダイナミック・プライシングは制限にも分散にも活用できる。
2 教育
・観光客に当該観光地域で留意すべき点を事前に伝える、誓約書に署名を義務づける。
・公認ガイドツアーを通じて観光客に適切な行動を促す、警備員を配置して管理する等。
3 分散
・季節分散:繁忙期以外のアクティビティを構築・告知して時期を分散する。
・地域分散:人気の地域・施設・活動以外の選択肢を構築・告知してエリアを分散する。
・時間分散:通常は観光客が活動しない時間帯(例えば早朝や夜遅く)に観光を促す。対応するスタッフの配置や近隣住民の負荷を増加させるリスクには留意が必要。
オーバーツーリズムの対応策はその地域の特性によっても変わってくる。例えば都市部なのかリゾート地域なのかを区分けする方法と、その観光地の受け入れ容量(キャパシティ)の大小という軸とインバウンド観光客のアクセス利便性の軸の2つで区分けする方法がある。本稿ではまだ初期的なコンセプトではあるが、後者の区分けを紹介する。