WEDGE REPORT

2020年11月3日

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小谷哲男 (こたに・てつお)

明海大学外国語学部教授

1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。日本国際問題研究所主任研究員を兼務。

  11月3日を迎え、米大統領選挙で共和党のトランプ大統領が再選するのか、民主党のバイデン元副大統領が政権を奪還するのかに注目が集まっている。世論調査は一様にバイデン有利を伝えているが、米大統領選は有権者による一般投票の結果を受けて、各州の人口に合わせて割り当てられた大統領選挙人を選ぶ間接選挙であるため、一般投票数の多い方が勝つとは限らない。しかも、コロナ禍で行われる2020年の大統領選は通常の形では終わりそうになく、どちらが勝つかよりも、いつどのように決着がつくのかが焦点となる。

アメリカは国家分断の危機を乗り越えられるか(AP/AFLO)

 さらに広い観点からは、選挙結果に基づく平和的な権力の移行という民主主義の基本原則が維持されるのかどうかという問題が問われている。アメリカは、1800年の大統領選において初めて対立する政治勢力の間で平和的な権力の移行を達成し、それ以降南北戦争の引き金となった1860年の大統領選の時でさえ、この原則は揺るがなかった。しかし、今回は両陣営が選挙結果の正統性を認めず、場合によっては暴力をともなう混乱が当面の間続く可能性がある。アメリカ政治が混乱すれば、中国や北朝鮮に現状変更の隙を与えかねず、日本にとっても対岸の火事ではすまされない事態である。

「赤い蜃気楼」

 新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐため、今回の大統領選はすべての州で郵便投票が選択肢として認められている。郵送を含めた期日前投票は9000万票にも及ぶと伝えられ、2016年の全投票数の65%に達している。郵送された投票用紙の取り扱いは各州によってルールが異なるが、投票日である11月3日必着の場合と、当日消印有効の場合があり、また投票日までに届いた投票用紙の下処理(開封と署名確認)を事前に行える州もあれば、投票日にならないとそれができない州がある。このため、11月3日の夜の時点では大勢が判明しない州が、激戦が続くペンシルベニアを含めて複数あるとみられている。

 トランプは、「郵便投票は不正につながる」と根拠を示すことなく繰り返し発言してきたが、それは郵送投票を行うのは大半が民主党支持者とみられるからである。一方、共和党支持者の多くは11月3日に直接投票所に足を運ぶと予想されるため、トランプは当日夜の時点では多くの州で自らが優勢となることを見越して、投票日以降に届く郵便投票を「無効」と宣言する布石を打っているのだろう。実際に、トランプは3日夜の時点で激戦州のオハイオ、フロリダ、ノース・カロライナ、テキサス、アイオワ、アリゾナ、そしてジョージアで優勢になれば、ホワイトハウスで勝利を宣言する意向であると伝えられている。

 投票日当日にトランプが優勢でも、郵便投票の開票が進めばバイデンの逆転が予想されるため、トランプのこの手法は「赤い蜃気楼」と呼ばれている。民主党陣営は「すべての投票がカウントされるべき」とこれを牽制しているが、共和党側は「民主党は選挙結果を盗み取ろうとしている」とこれに反論している。いずれにせよ、選挙結果の判断は法廷に持ち込まれる可能性が高い。トランプが選挙前に保守派の連邦最高裁判所判事の追加を急いだのも、大統領選後の法廷闘争に備える意味があったとみられている。

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