中国との対決姿勢を強めてきた米トランプ政権は、安全保障上の脅威となる中国企業を排除してきた。2018年8月には、華為技術(ファーウェイ)など複数の中国企業からの政府調達を禁止。同年5月には実質的にファーウェイへの米国製品の販売を禁止した。20年8月には、米国の技術・ソフトウェアを用いて米国外で製造された製品の同社への販売も禁止した。米国は、通信インフラの一部を中国企業が握れば、機密情報などが漏洩する恐れがあると懸念する。
5G標準化に取り組んできた東京工業大学工学院の阪口啓教授は「中国企業が5Gなどの通信機器の開発に関わっても秘匿性の高い情報を読み取ることはできない。ただ、アプリケーションやクラウドなどの情報インフラまで関わると、理論上は情報を取得することが可能になる」と指摘する。一方で中国企業は、5Gを筆頭に先端技術の開発や標準化にも大きくかかわってきた。米国は中国企業を排除してどのように5G、ひいては6Gの技術開発を行っていくのか。米国務省国務次官のキース・クラック氏に聞いた。
── 米国はなぜ、ファーウェイなど中国企業への制裁を強化するのか。
中国共産党は長期的利益を見据えて必要な行動をとっており、真剣勝負をしている。特に困るのが、中国側が自国は「ルールを超越する存在」だと信じていることだ。中国共産党は何年もの間、中国のテクノロジーを購入するよう企業や他国に圧力をかけている。それは、国家情報法(中国の国家情報活動に関する法律)の下、中国のすべての国営企業や民間企業、そして中国国民は、求められればあらゆる情報や専有技術、知的財産、データを中国共産党、人民解放軍、または政府へ引き渡さなければならず、従わなければ代償を伴うということを分かっているからだ。
ファーウェイや中興通訊(ZTE)といった信用できない、ハイリスクの事業者、またそのアプリやクラウド、ケーブルなどのあらゆる関連製品はともに、重要なアプリケーションやインフラを破壊もしくは兵器化する、あるいは中国軍のテクノロジー分野を進歩させる能力を、中国共産党が実権を握る権威主義政府に提供している。米国においてファーウェイが、銀行詐欺、有線通信不正行為、制裁措置への違反、米国のテクノロジー企業6社の知的財産の不正使用などで、起訴されていることは少しも驚くべきことではない。
また、ファーウェイがドイツテレコムの子会社である、米国のT−モバイルの知的財産を盗用したことは周知の事実だ。ヨーロッパや他の足掛かりを得た地域において、中国が同様の手口を使っていることが分かっている。
中国共産党は、ファーウェイ、TikTok、WeChatなどの中国企業や彼らが持つテクノロジーを組織的に用いて、世界のデータを取り込んでいる。世界の市民はその危険性に気づき、嫌な気持ちを味わっている。各国政府の指導者やグローバル企業のCEOは、中国共産党による嫌がらせに立ち向かう政治的意思を有している。米国では現在、これは超党派で見解が一致している問題の一つだ。
こうした危険性を考慮し、世界各国の政府や企業は「誰を信頼して重要な個人情報と知的財産を託せばよいのか」と自問することが増えている。本年以降、その答えに迷いはなくなるはずだ。新型コロナウイルスの流行の発生を隠蔽していたこと、香港の自由を骨抜きにしていること、新疆ウイグル自治区に対し、容赦ない抑圧政策を貫いていることなど中国共産党の悪質な行動を見て見ぬふりはできない。こうした悪事が行えるのは、ジョージ・オーウェルが小説『1984年』の中で「ビッグ・ブラザー」として表現した、監視国家が世界の数十億人の行動を追跡しているためである。