「米国企業の部品は買わせないというので代替部品を自社開発して入れ替えた。そうしたら今度は自社開発の部品は量産させないが、米国企業の部品は買ってもいいと変わり、それに合わせて設計し直すことになった」。華為(ファーウェイ)技術日本法人の王剣峰(ジェフ・ワン)会長は米国の制裁が与えている影響についての取材でそう話し、苦笑した。
米商務省傘下の産業安全保障局は2019年5月、ファーウェイをエンティティー・リストに指定した。これにより米企業はファーウェイとの取引が禁止されたほか、米国以外の企業であっても米国由来の技術や部品を一定比率以上含む製品をファーウェイに輸出することが禁止された。
ファーウェイは中国随一のテクノロジー企業ではあるが、その製品は米国や日本などから輸入した部品を数多く含んでいる。エンティティー・リスト指定は大打撃をもたらすかと思われた。しかし、19年の決算では、売り上げは8588億元(約13兆円)と、前年比19.1%増の高成長を記録した。制裁によって、主力商品のスマートフォンは米グーグルの諸機能が搭載できなくなり、海外市場での売り上げが落ち込んだが、中国国内市場ではもともと検閲によりグーグルの機能は排除されていたため影響はなかった。
ファーウェイの事業のもう一つの柱である携帯電話基地局事業でも、中国は巨大市場だ。招商銀行研究院の報告書によると、23年までに中国携帯キャリアが必要とする5G基地局は400万局に達する(日本の設置目標数は21万局)。現時点でファーウェイのシェアは約50%とみられる。ここでも米国の制裁は痛手ではあるが、巨大な中国市場があるかぎり、致命傷とはならない。
サムスンを一世代先行する
台湾TSMCの製造技術
そんな中、今年5月に新たな制裁が導入された。ファーウェイが設計した半導体を、海外のファウンドリ(半導体受託製造企業)が量産することを禁じるという内容だ。ファーウェイの子会社である半導体設計企業ハイシリコンはスマートフォン向けSoC(システム・オン・チップ、CPUなどスマートフォンの中核機能を統合したチップ)の「Kirin」や5G基地局コアチップの「TIANGANG」の開発を担当してきた。自社の製品に最適化された、高性能の半導体を独自設計できることがファーウェイの強みだ。
ただし、設計まではできても、量産する能力はファーウェイにはない。製造については多くを世界最大のファウンドリであるTSMC(台湾積体電路製造)に委託してきた。米国はTSMCへの依存こそファーウェイのアキレス腱だと見抜き、両者の分断を図る新たな制裁を実施したわけだ。
微細加工技術をはじめとして、TSMCの製造技術は、半導体受託製造で第二位のサムスンと比べて「一世代は先行する」(半導体企業の幹部)と言われ、米アップル、クアルコム、アドバンスト・マイクロ・デバイス、NVIDIAなど世界のトップ企業の受託製造を受け持ってきた。台湾調査会社トレンドフォースによると、TSMCの20年第2四半期の売り上げは101億ドルで、2位のサムスンの37億ドルに2.5倍もの大差をつけている。